第120話佳奈:クラゲ退治成功!
「佳奈!」
「瑞樹!」
そして新しい瓦礫を生み出してそれを振り回していると、瑞樹が周囲に雷を放ちながら現れた。
「先に聞いてはいたけれど……やっぱりすごい戦い方よね」
「だ、だっていちいち殴ってたら時間がいくらあっても足んないじゃん」
佳奈の隣に立った瑞樹は、自分にはできない無茶苦茶な行動をする佳奈を見ながら苦笑いする。
瑞樹は佳奈の作戦を聞いていたが、それでも聞くのと見るのとでは全然違う。
技も心もない、ただ力だけが込められた暴風のような攻撃。
「——あれが親玉みたいね」
そんな力任せで無茶苦茶なやり方でここまできた親友から視線を移すと、瑞樹はそれまでよりも気を引き締めるべく深呼吸をした。
「伊上さんに連絡はした?」
「うん。ナイフを刺せって」
「まあ、予定通り、か」
「よね。じゃあ瑞樹、お願い」
単純な筋力の力強さでいったら、特級である瑞樹よりも一級である佳奈の方が強いのだが、速さとなると瑞樹の方が速い。
なので、瑞樹が行ってあのクラゲにナイフを刺すべきだろうと佳奈は提案したのだが、瑞樹はどこか申し訳なさそうな顔をしている。
「見つけたのは佳奈なのに、なんだか活躍の場を奪うみたいだけど……」
親友の活躍に嫉妬している。できることなら親友ではなく、自分が活躍したい。
だがそれでも親友が活躍することを望み、その手柄を奪うことを良しとしない。
そんなある種矛盾したことを本気で思っているのが宮野瑞樹という少女であった。
「気にしない気にしない。ってか、そんなの気にする余裕なんてないでしょ。それに、活躍なんて言ったらあいつの方が全然上だし……」
「……まあ、そうね。それじゃあ行ってくるわ」
なんの思うところもないとばかりに笑いながら進める佳奈だが、最後に表情が曇った。
それは自分よりも活躍している、そしてこの後も『活躍』するだろう自分たちの仲間であり恩人であり、そして想い人である浩介のことを考えたからだろう。
瑞樹はそんな佳奈の心を読んだかのように僅かに顔を顰めたが、すぐに浩介から渡されたナイフを手にもつとクラゲ達のボスに向かって跳んだ。
「ッ……!」
「瑞樹!?」
が、瑞樹がボスに近づこうとした瞬間、視認しづらい壁が現れて瑞樹の行く手を阻んだ。
ナイフを突き立てようとしていた体勢から、咄嗟に体を動かして現れた壁に激突しないようにしたが、そこにボスの触手が突き出され、瑞樹は弾き飛ばされた。
だが、弾き飛ばされたといっても、瑞樹にとっては遅く、軽い攻撃でしかなかったために、瑞樹は弾き飛ばされながらも空中で体勢を整えて余裕を持って着地した。
「……ただいま」
「結界?」
「ええ。それも、結構硬いやつね」
着地した瑞樹は再び佳奈の隣に戻ると、何があったかを話し、そしてどうするかを話し始めた。
「だから、佳奈。あなたにも活躍の場を用意してあげる」
「活躍の場なんてない方が良かったけど、やるしかないか。結界を壊せばいいんでしょ?」
瑞樹は活躍の場としか言わなかったが、その説明をされる前に佳奈は何を求められているのかわかった。
結界なんてものが敵を守っており、その状態で自分に活躍の場といったら、それはもうその結界を殴り飛ばせと言っているとしか考えられなかった。
「ええ。できる?」
「もち! だから、そっちもミスしないでよ?」
「当然。——それじゃあ、周りのを片付けるから、結界を壊して。その後は私がやるから」
「りょーかいりょーかい!」
軽い返事だが、そう言った佳奈の表情はどことなく嬉しそうで、そして、獰猛なものだった。
「三、二、一……」
カウントをする瑞樹の魔力は高まっていき、すでに一級程度の魔法使いと遜色のない、ともすれば超えるであろう規模の魔法を構築していた。
「ヤアアアアア!!」
叫び声と共に放たれた雷撃は、周囲にいたボス以外の全てのクラゲ達を蹂躙し、消滅させた。
だが、それほどの攻撃であってもボスの使っている結界にはヒビ一つ入っていない。
「ぶっ、壊れろおおおおお!」
魔法によって敵のいなくなった空間を佳奈が走り、ダンっと音を立てて踏み込むと結界に向かって勢いよく跳んだ。
そしてその勢いを殺すことなく佳奈は全力で結界を殴りつけた。
乱打なんてしない。
一撃。その一撃で何もかもを打ち砕くという思いと力を込めて、佳奈は結界へと拳を叩きつけた。
瑞樹の雷を持ってしても無傷だった結界は、佳奈の拳によってヒビが入った。
そしてそれは徐々に広がっていき、ガシャンとガラスが砕けるような音を立てて砕けちった。
「セヤッ!」
瑞樹は魔法を放ち終えると、結界が壊れる前から動き出していた。
そして、結界が壊れると同時にボスへと向かって踏み込み、持っていたナイフを刃の根元まで深く突き刺した。
「刺した! これでっ!」
ナイフを刺した後は、魔力を流してナイフに込められた魔法を発動すると、変にダメージを加えて殺してしまわないようにと瑞樹はボスのクラゲから距離をとった。
瑞樹がナイフを刺してからしばらくはなんの問題もない感じで動いていたクラゲ達だが、ボスも遠くから集まってきた子分達も、全てが突然暴れ出して、かと思うとパタパタと地面に落ちていった。
「成功、したみたいね」
「うん。お疲れ、瑞樹」
「佳奈もね。お疲れ様」
二人はそうして互いに労い合うと、終わったことを頭が理解したのかドッと疲れを感じて息を吐き出した。
「でも伊上さん、やっぱり流石としか言えないわね」
先ほどまでは鬱陶しいほどに浮かんでいたクラゲ達だが、今は飴が降っているだけで、クラゲ達は全て地面へと落ちていた。
そんな光景を見て、感嘆の息を吐きながら瑞樹はつぶやいた。
が、同時に、こんなことができるなんてよほど無茶をしたんじゃないかと心配になった。
「あいつ、大丈夫かな……」
そしてそれは佳奈も同じだったようで、心配そうに表情を歪めながら小さくではあるがそうつぶやいた。
「それじゃあ、戻りましょうか。佳奈も心配で仕方ないみたいだものね」
「違っ! ちが……ちが、くないけど……違うし」
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