第48話年末の予定
──◆◇◆◇──
「文句言ってた割に食べてんじゃない」
「来たんだったら食うだろ、そりゃあ」
結局俺の抵抗は虚しく、俺はあまり男はこなさそうな可愛らしい系の喫茶店に入ることになった。喫茶店というか、甘味店?
「伊上さん、甘いもの好きなんですか?」
「それ、なんだかすごく、おっきいですね」
「……悪いか」
こんなところに来る気はなかったが、仕方なしとはいえ来たのに何もしないってのは癪なので、俺も注文をすることにしたのだが、その結果が呆れた……と言うよりも若干微笑ましげな宮野達の視線と言葉だった。
ちなみに頼んだのは『ジャンボハニーベリーパフェ』という、ダンジョン産の蜂蜜とベリーを使ったそこそこの値段がする大きいパフェだ。
多分女性は頼まないくらいの量のやつ……なんだが、今更だけどこれって男女で一緒に食べるものだったんじゃないか?
「悪くはないけど……意外かなー、って」
「男の人って、甘いものはあんまり食べないイメージだもんね」
「クリームならこれもおすすめ」
まあイメージ的にはわかるけどな。でも、女だって辛いものや苦いものが好きな奴がいるように、男だって甘いものが食べたい時はあるっていうか、結構好きな奴もいるんだぞ。
それと安倍、そんなふうにスプーンを差し出されても食わないからな。
『——イングランドにて|救世者軍(セイヴァーズ)による被害が……』
安倍の差し出してきたスプーンを押し返していると、不意に店の壁にかけてあったテレビのニュースが目に入り、眉を顰めてしまった。
「? 伊上さん、どうかしましたか?」
「ん? ああ、なんでもない」
そう言ってすぐに視線を逸らして誤魔化したのだが、それで誤魔化し切ることはできず、宮野達は全員がテレビのニュースへと視線を向けた。
「救世者軍?」
「最近結構名前を聞くわね」
「あー、そうかも。……でもさ、結局のところ救世、なんて大袈裟な名前掲げてなに目的にやってんの?」
「確か……ゲートが開くのは世界の意思で、それに逆らうのは罪だ。人類は一度浄化されるべきだ、って言ってるんじゃなかったかな?」
救世者軍ってのは、今北原が言ったように反体制組織というか、自滅願望というかで溢れてる奴らだ。
いろんなところでゲートの破壊を邪魔したり、冒険者の施設を襲撃したりと色々なことをやっている。
俺としては死にたいなら勝手に死んでくれとしか思わない。むしろ周りを巻き込んで迷惑だなって感じだ。
だが、俺が気になったというか気にしたのはそっちじゃないんだよな。
「あー、そっちもだが、俺的にはイングランドの方が気になったというか思い出したというか……」
「何かあったんですか?」
「一度行ったことがあるんだよ。あまり思い出したくない思い出だがな」
あの時は本当にやばかった。いや、あの時は、ってかあの時〝も〟だったな。
数年前に機会があったから海外旅行に行ったんだが、その時になぜかすぐ近くでゲートが発生し、そこからモンスターが溢れてきた。
その対処のために付近の冒険者は全員強制招集されたんだが、その時に特級モンスターにであってしまった。
あの時は運よく『竜殺しの勇者』が近くにいたからそれほど被害は出ずに終わったが……はぁ。思い出したくもない。
……あれ? よく考えれば俺って五年の冒険者生活の間、ほぼ毎年特級のモンスターに遭遇してないか?
マジで呪われてたりするんだろうか? 一応お祓いしたことあるんだけどなぁ……。
「そんな暗い話よりさ、年末どうするか話そ」
「年末ね。もうそんな時期かぁ。遅いような早いような……」
ランキング戦が終わり、学生達は試験も終わった今日は、暦で言うところの十二月に入ったところだ。あと一月すれば今年も終わる。
「みんなはどうすんの?」
「年末ってクリスマスと年越し、どっち?」
浅田の問いに安倍が首を傾げている。
年末といえば年越しだが、まあイベントとしてはクリスマスも年末の行事に入るか。
「どっちもに決まってんじゃん。予定がなかったらこのメンバーで集まらない……って言おうと思ったんだけど……もしかして、この中に恋人いる人、いたりする?」
少し好奇心と……怯え、だろうか? 浅田はそんな態度を滲ませながらチームメンバーを見回した。
好奇心は年頃の少女としてはまっとうなものだが、怯えの方は、自分意外に恋人がいたらどうしようって感じのアレだろうか。
にしても、恋人、か……。
「私はいないわ。欲しくないわけじゃないんだけどね」
「私も、いない、よ?」
「同じく」
……だが浅田の問いに宮野達さん人は否定の言葉を返した。
こいつらは見た目が悪いわけでもないんだし、性格も悪くないし冒険者としての能力もある。恋人になりたいってやつはそれなりにいると思うんだけどな。
「そもそもさぁ、どうやって出会えばいいの、って話なわけよ。学校だから出会いがないってことはないんだけど、ここしばらく忙しかったでしょ?」
「そうね。まああの学校だと仕方ないかな、って感じもするわよね」
「そうそう。ライバル心っていうか、敵愾心が強すぎんのよね。周りは全部敵! ってほどでもないけど、仲良くなりづらい雰囲気があるじゃない」
あー、そういうのもあるのか。
確かにランキング戦なんてやって順位を決めて、上位の奴らには報酬が出るとなれば単純に仲良しこよし、なんていかないか。
それに、学校生活での活躍と成績が自身の未来に関わり、その未来が命にまで関わるんだから、当然といえば当然だ。
だから普通の高校と同じように、とはいかないんだろう。
「うん。それは、すごくわかる。私、佳奈ちゃん達が声をかけてくれなかったら、多分一人だったし……」
「あー、あん時のあんたぼっちだったもんね」
「う、うん……」
「でもさ、今はあたし達が仲間なんだからそれでいいじゃん。過去なんて気にしないで前を見てこー、ってね」
「うん。そうだね」
……相変わらず、浅田は見た目や時々の言動に反して、結構面倒見がいいよな。
少なくとも、見た目だけ飾って他者を切り捨てる奴よりはよほど好感が持てるやつだ。
「でさ、そんな状態なわけだし、出会いがあっても出会えないっていうか……恋人を探す場所としてはあそこはダメな場所だと思うわけよ」
「あら、でも佳奈は最近気になってる人がいるんじゃないの?」
「ち、違うし。そんなんじゃないし。気にはなってるってそういうあれじゃないから!」
「気にはなってるのね」
「違うから!」
宮野は悪戯っぽく笑いながら浅田を揶揄っているが、浅田のその態度は肯定しているようなもんじゃないかと思う。
そんな会話を俺は目の前にあるパフェを口に運びながら聞いていた。
というか……
「……なあ、なんで俺はこんな話聞かされてんだろうな?」
恋愛話にはあまり興味がないのか、俺は対面で大人しくケーキを食べていた安倍に話しかけたのだが、安倍は一瞬考え込むような仕草をした後に軽く首を傾げてから口を開いた。
「……教導官の務め?」
「これが教導官の仕事であってたまるかよ」
安倍の返答に、はあ、吐息を吐き出し、俺はすぐ隣から聞こえる話を聞き流しながらパフェを口に運ぶ作業へと戻った。……甘いなぁ。
「ともかく! 結局みんな予定がないってことでいいんでしょ!?」
どうやら浅田は自身が不利だと判断したのか、強引にでも話を逸らすことにしたようだ。
……今日の夕飯何すっかなー。今甘いもんを食ってるし、少しさっぱりしたもんにでもするか?
「あんたも来んのよ」
「……なんだって?」
「だから、あんたも来るの。どうせ予定ないんでしょ?」
今日の夕飯のことを考えていると突然話を振られ聞き返したのだが、繰り返された内容はなんとも返答に困るものだった。
「……それとも、なんか予定あるの?」
俺が答えに困っていると、浅田はなんだか微妙そうな表情をした。
チームの親睦を深めるために俺も誘ったんだろうし、断るのは空気が読めてない感じもするが、その日は予定が入っている。
……でも、こういう反応をされると困るな。すごく断りづらい。
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