第44話新たな『勇者』
広く清潔感のある部屋に男女八人が集まって大きな卓を囲んでいる。
「あ゛あ゛あ゛あ゛〜〜〜〜〜。なんで今回もあんなのに出会うんだよクソッタレぇ〜〜〜」
集まっている男女の女の方は宮野達で、男の方は俺の元チームメンバーだ。
そして情けない声を出しながら机に突っ伏している男が俺だ。
現在俺たちは、試合のお疲れ会と、俺の道具を用意してくれたヤスへの礼を兼ねて食事に来ていた。
だが、個室とはいえ店に来ているのになんでこんな声を出してるか? んなもん決まってる。あのくそモンスターのせいだ。なんで人生で四回もイレギュラーに遭遇すんだよ。ないだろ、普通。
「そりゃあ、アレだろ。お前好かれてんだよ、ダンジョンに」
「じゃあイレギュラーはダンジョンの求愛行動か?」
「そんな求愛行動は俺はごめんだな」
「俺だってごめんだわ馬鹿野郎」
元チームメンバー達の言葉に顔を顰めながら返すが、どいつもまともにとり合ってくれない。
「まあまあ、生き残れたんだからいいじゃねえか」
「だな。もうこれで冒険者終わりなんだし、最後の記念と思っとけよ」
イレギュラーとの遭遇が記念とか……嫌な記念だなぁ。大体のやつは死ぬぞ、その記念。
「えっと、あの……」
招かれたものの、宮野は若干戸惑っているようだ。
だがまあ、それもそうか。多少は知り合っているものの、俺以外はほとんど知らないおっさんだ。その中でいつも通り振る舞えってのは難しいだろう。
まあ、安倍と浅田はいつも通りの様子だし、北原もそんな二人のおかげかなんとか食事をしていられるようだ。
「おお、勇者ちゃん。あの時の話は役に立ったか?」
「あ、はい。とてもありがたかったです」
と、そこでヒロが宮野にそんな声をかけ、宮野は少しぎこちないながらも笑って頷いた。
だが、こいつらにそんな接点なんてあったか?
「なんだ? お前宮野となんか話したのか?」
「ああ、まあ、ほら、俺たちが進めたっつっても知らないおっさんと組むのはちょっとアレだろうからな、少し連絡とってお前のことで話をしたんだ」
「……なんも聞いてねえぞ」
「言ってないからな」
ヒロの話を聞いてる感じだと、結構最初の方だろ?
とすると……あそこか? チームでの話し合いをしたいからって俺が宮野に呼び出されて学校に行った時、あの時宮野が妙に距離感がおかしいと思ったのはこいつのせいか。
「まあ終わったことだ、気にすんな」
「気にすんなって言うの、普通俺じゃね?」
「それこそ気にすんなよ、ハゲるぞ」
気にするような事を起こしてんのはてめえらだろうが、このやろう。
「あの時の動画見たぞ」
「え……み、見たんですか!?」
「そりゃあ見るだろ。これでも冒険者なわけだし」
ふと視線をヒロから移すと、宮野達がケイとヤスに絡まれてた。
「み、皆さんも……?」
「どお? あたしたちかっこよかったでしょ?」
「おう。カッコよかったぜ」
「浅田ちゃんはすごかったな。豪快にドーンってあの猿の足をぶっ叩いて」
「それよか俺は相手チームを一人で相手取ってたのがすげえと思うけどな」
「つっても、あれは一人だけってわけじゃないだろ? 安倍ちゃんのわかりづらい環境作りがあってこそだ。北原ちゃんが逃げて囮になったのもそうだな。逃げた後はすぐに助けられるようにいい場所に陣取ってたし、ま、チームの勝利ってやつだろ」
ケイとヤスがそう言うと、浅田、安倍、北原は満更でもないように笑いながら目の前の料理を口に運んでいく。
「まあでも、宮野ちゃんはまじで勇者の称号をもらうかもな」
「ああ、その件だけどもう称号がつけられるの決定らしいぞ?」
ケイの言葉にヤスが酒を飲みながらなんでもないことのように答えたが……そうなのか。
「え?」
「そうなのか。でも納得って言えば納得だよな」
宮野が間抜けな声を出しているが、俺としては納得だ。
勇者とは、個人でダンジョンを制圧し、ゲートを破壊することのできる力の持ち主。
それと同時に、こいつがいれば大丈夫だ。どんな敵が来てもなんとかなる。そう思わせることのできる英雄だ。
あのイレギュラーにぶっ放した一撃を見られたんだったら、勇者になるのも当然だな。
「まあな。アレだけすっごいのをぶちかましてりゃあ『ただの特級』としては扱えんだろ。二つなの方は未定らしいけどな」
「な、なんでそんなことが……」
二つ名ってのはその勇者を表す識別証みたいなもんだ。炎を扱うなら『炎の勇者』類稀なる剣技を持って戦うなら『極剣の勇者』みたいにな。
しかし、基本的にはそれが決まっていない状態ではまだ世間には勇者が決まったという発表はされないはずだ。
だと言うのになんで自分も知らない情報を知っているのか。今の宮野の言葉はそういう言う意味だろう。
だがヤスはなんでもない事のように自分を指差しながら簡単に言ってのけた。
「ああ。俺、これでも冒険者関連の装備を扱ってる会社の社長の息子だから」
「まあ、いいとこの坊ちゃんだ」
「三男だってのと才能がなさすぎて半ば放逐されてっけどな」
「うっせえよ!」
俺が今回の戦いの際にいろんな道具を用意したが、それは全部ヤスのツテを使って用意したものだ。
半ば放逐っつっても、勘当されたわけじゃないから繋がりはあるわけだし俺が揃えるよりも早く安く済んだ。
「で、でもあれは私の力ではなく、伊上さんのおかげという面が強いかと思うんですけど……」
「あー、あいつね。あの常識人の皮を被った非常識」
ざけんな、俺は常識枠だろ。ただ死にたくないから、死なせたくないから死ぬ気で努力しただけだ。
「あれは無視していいよ。組合の方でもいろいろあるから持ち上げられないけど、上の方は知ってるから」
「そうなんですか?」
「ああ。まあその辺はいろいろあるのさ、めんどくさいあれこれがね」
三級に二つ名を与えると他の三級が「じゃあ俺も」と無茶をするからダメ、みたいな話は聞かされた。
他にも何やらあるみたいだが、俺としてはどうでもいい。
多少人より強かったところで、何をしたところで、所詮は三級なんだ。特級と名前を並べるなんてことはできないし、したくない。
「ま、そんなことより食べな食べな。頼みたいものがあったら好きに頼んでいいよ! コウの奢りだからさ!」
「なんなら酒も飲むか? 今日くらい俺たちは止めたりしないぞ?」
ケイとヒロが酒を勧めているが、そいつら未成年だぞ。
それに、確かに宮野達、それと道具の調達を手伝ってくれたヤスには奢るつもりだが、お前らには奢らん。
「ばかどもが。止めるに決まってんだろ。それから……お前らの分は出さねえぞ?」
「はあ!? ざけんな! どんだけ頼んだと思ってんだよ!」
「知らねえよ! 自分で払っとけ!」
そんなふうに馬鹿みたいに話しながら、俺たちは食事を楽しんでいった。
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