第26話五年前はクソだった

 

「勝たせてやると言ったが、ルールを知るところからだな。それが分からなきゃ何もできん」


 お手洗いに行ってくると言って一旦錬金室から出ていった宮野だが、その彼女も戻ってきたので早速話をすることにした。


「そうですね。まずは確認ですが、基本的なルールは知ってますよね?」

「知らん」

「え?」

「知らん」


 宮野が目を丸くして呆けた顔で俺を見ているが、知らないものは知らない。


「……えっと……この学校に、通ってたんですよね?」

「通ってはいたが、俺短期だからな。体育祭だランキング戦だってのがあったのは知ってるが、参加したことはない。つーかそもそもそんなことを気にする余裕なんてなかった。休日なんてなかったしな」

「……短期入学ってそんなにひどいんですか?」


 宮野は顔をしかめているが……そうか、短期の酷さは知られてることじゃないのか。まあ校舎からして別だしな。


「酷いも酷い。ありゃあ人に勧めるようなもんじゃねえよ。前にも言ったが、一年間でできる限り詰め込むんだが、普通にやったんじゃ一年じゃあ全然足りない。だからできる限り時間を有効に使うために一年間三百六十五日授業だ。一応半休はあったが、まあそれだって週に一度あるかないかってくらいのもんだった」


 俺たちみたいな三十を超えた後天性覚醒者は期待されてないってのは分かってるが、それでもあの扱いはひどいと思う。


「そんなわけで、通ってはいたが行事なんかにはトンと疎いんだ。精々が学校を出てから噂で聞いた程度だな。それだってダンジョンに潜る方が大事だったから特に調べたりとかしてねえし」

「そう、でしたか……えっと、なら基本から説明させていただきますね」

「ああ、頼む」


 俺がそう頼むと、宮野はわずかに口元を緩めて笑った後に説明を始めた。


「ランキング戦は、一応体育祭と名前がついていますがその期間は一ヶ月という長期間に渡ります」

「一ヶ月って、そりゃあまた長いな」

「はい。けれど、ランキング戦には個人と班別の二つがありますから、一日二日では終わらないんです。とはいえ、それでも全員が戦うことは難しいので、最低限の全員出場する競技を行った後は、参加申請したチームだけが何チームかが同時に戦うことになります……あ、同時にと言っても、それぞれ別の場所に戦うので、一対一を何箇所かで、という意味です」


 全員参加させるのは学校用事として最低限の体裁を保つためか?

 体育祭って名乗ってるのに参加できないとなると一般市民がうるさいだろうからな。


 にしても、ランキング、ねぇ……。


「そもそもだ、ランキングってのはなんなんだ? いや順位を決めるのはわかるが、なんの順位をなんのためにあげるんだ? 卒業後に大手のチームに入るためか?」

「それもありますが、一・二年生と三年生では目的が違います。三年生は伊上さんの言われた通り卒業後を見据えてですが、一・二年生はそうではありません。ランキングが上位になると、色々と便宜を図っていただけるんです」

「便宜ねぇ……」

「はい。たとえば、全部ではないですけどある程度の授業の免除。それから些細なことであれば問題を起こしても不問にされることもありますし、外部の会社やチームに何か用があるときに渡りをつけてくれたりもします。あとは部屋なんかもですね。寮で上位者用の個室をもらえます。それ以外にも色々と……」

「まあ、特権階級的なあれか」

「はい。ですからそれなりに実力のある者は上へ上へと挑みます」


 この学校は政府の手が入ってることを考えると、こうして順位をつけるのもその辺の意向なんだろうな。競争させて冒険者の強さを引き上げる的な。

 強い冒険者を育てるためなら、多少の『普通』から外れることも認めるってわけだ。

 まあ、気持ちはわからないでもないけどな。覚醒していないお偉いさんからすれば、ゲートが増えるってのは危機を感じるだろうし。


「ふ―ん。まあランキングについてはわかったが、それで肝心の相手と戦えるのか?」

「……おそらくは対戦表をいじってくるかと思います」

「そんなことがただの学生にできるのか? そういうのは普通教師が決めたりランダムなんじゃないのか?」

「最終確認として教師が確認をしますが、基本は生徒会が対戦表を作りますから」

「なるほど。あいつは生徒会に入ってるんだったな」

「はい。普段ならこのような強硬な手段はとるような人ではないのですが……」

「ま、なんにしても対戦が確実だとわかってるんだったらいい」


 対戦票をいじってくるんだったら、宮野と当たるために一回戦目で当たるようにするだろう。でなければせっかくの舞台を整えてもどちらかが途中で敗退すれば台無しになるからな。

 それでも宮野たちよりも向こうのほうが多く勝ち残ってれば自分たちが勝ったとも言い張れるだろうが……多分それはない。

 あの時ほんの少し話しただけだが、あいつはそういうことで満足するようなタイプじゃないと思う。正面からぶつかって、それで認めるような奴……だと思う。

 違ってたらあれだが、今はその過程で話を進めるとしよう。


 作戦を練るのに知る必要があるのは相手の戦力だな。

 そういえば、ランキングっていうくらいだから相手にも順位があるんだろうが、こいつらはどれくらいの順位なんだろうか?


「ちなみに今お前たちは何位くらいなんだ?」

「一年生だけでいうのなら十五位です。一年全体が五十組程度ですから、どちらかというと高い方、という程度です。全体で言えば、百を下回らないくらいかと思います」

「まあ、上級生がいるんだったらそんなもんか。で、相手は?」

「……学年一位。全体で三十位です」

「さんじゅう……やべえな」

「はい……ですがそれは夏休み前の評価なので、今だったらもっと上にいけると思います」


 一瞬だけ目を伏せた宮野だが、すぐにやる気に満ちた表情へと変わった。


「でもまあ、所詮は学生。さっきあんだけカッコつけて約束したんだ。勝たせてやるさ」

「はい!」

「とりあえず、細かいルールの続きだな」

「あ、そうですね。すみません話が逸れてしまって」

「いや、逸らしたのは俺だから。むしろこっちが悪いな」


 そして宮野は一度咳払いすると、もう一度ルール説明の続きを始めた。


「ではえっと、基本ルールですが、簡単に言ってしまえば『宝探し』です。知りませんか? 五年ほど前から外部でも『アドベンチャーハント』って名前で公式戦として大会が開かれたりするんですけど……」

「あー、そういえばなんか聞いたことはあるな。見たことはないけど」


 五年前ってーと、ちょうど俺が覚醒したり学校に行ったりしてクッソ忙しかった時か。

 その後は一般で活動するようになったが、一般で活動するようになって三年は変わらずに忙しかったし、その後だって毎回命がけでスポーツ観戦なんてする余裕はなかった。

 休日は死んだように寝てたし、テレビだってまともに見れてなかったからな。見たのは……ダメだ、天気予報すら見てねえや。

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