第14話短期入学者の短期入学者の事情
「では学内の通行許可証は後日宮野さんにお渡ししますので、彼女から受け取ってください」
「わかりました──あ?」
廊下に出ると、すでに帰ってもいいと伝えたはずの宮野がスマホをいじりながら待っていた。
真面目ちゃんな感じのしていた宮野もそういうのを弄るんだなと思ったが、よくよく考えなくとも宮野は今時の高校生だ。待ち時間にいじっていてもおかしくないか。
「あ。伊上さん、桃園先生。お話は終わったんですか?」
宮野は俺たちに気がつくと直ぐにスマホを鞄にしまってこちらに歩いてきた。応接室から少し離れた位置で待っていたのは話を聞かないようにとの配慮だろう。律儀な子である。
「何だ、ずっと待ってたのか」
「呼んだのは私ですから。最後まで付き合うのは当然のことです」
「……馬鹿みたいに真面目だな」
「真面目なことは悪いことではありませんよ」
「まあ、悪いとは思わないけどな、俺も」
ただ、損をするとは思う。世の中真面目なだけで生きていけるほど甘くはないからな。
けどまあ、それを決めるのは彼女であって、俺が口を出すことじゃあないか。
「宮野さん。折角ですし、伊上さんに学校を案内して差し上げたらどうですか?」
「え? 俺は一応ここを卒業してますけど……」
「四年前の話ですよね? もう一度通うことになるのですから、確認の意味を込めて見ておいた方がいいかと思いますよ?」
「まあ、そうですね」
「では宮野さん、後はよろしくお願いしますね」
桃園先生はそう提案し、宮野に頼むとそのまま去っていった。
あまり仲良くしたくないんだがな……。
「あの……もう一度通う、というのは?」
「あー、何だ……外部からの助っ人教導官として班の一員として授業に参加することができるらしくてな。俺もそれに……というか、知ってたんじゃないのか?」
「ええまあ。その制度は知ってましたけど、受けていただけるとは思っていなかったと言いますか、本来の契約外ですので、ご迷惑になるかと思ったんです」
ああ、なるほど。今までの俺の態度を見てればそう思っても不思議じゃないか。事実、途中までは受ける気なかったし。
「一応こっちにもメリットがある話だったからな。金になるし、学校の施設も使える。装備の手入れや買い物ってのは、外より学内の方が安く済むんだ。それに、他にも色々とできることがあるからな」
この学校には冒険に必要ないろんなものが揃ってる。道具から始まり、武器や魔法具も売ってるし、治療までしてもらえる。
流石に数百万とか数千万とかするものは売っていないし、よっぽどの治療だと金を取られるが、それでも外のものよりは格安だ。
それらが利用できるってだけでも結構ありがたい。
「では案内をしますが、どこから回りますか?」
「どうすっかなぁ……回るっつっても、それなりに覚えてるし……あー、どこか四年以内にできた新しい何かがある場所ってないか?」
「四年以内ですか……あ、でしたら訓練場の設備と、訓練場そのものが増えました」
「訓練場か……あそこはあんまり行ってなかったな」
「そうなんですか?」
「ああ。ほら、俺は短期で入ってたから、授業は詰め込みだったし、自由時間はあんまりなかったんだよ。訓練場は授業で何度か使ったが、それ以外となると数える程度だな」
「そうだったんですか。短期の方は大変だと聞いていましたが、
「まあ、短期で通う奴は大抵がそれなりに歳のいった後天性覚醒者だ。若いやつに比べて才能という点で劣ってるのに時間をかける必要はないからな。短期入学ってのは、無理やり詰め込んで、覚えられなくても最低限の教育はしたって言い張れるためのもんだ。こっちの苦労なんて考えてやしないさ」
「……」
やべ、愚痴っぽくなったな。
あの時のクッソ忙しい時を思い出すとつい苛ついてしまう。
俺はあの時の経験で、心を亡くすで忙しいって書く理由がわかった。人生で一番忙しかったな。
これから宮野たちと行動を共にするんだったらあの時の教師と出会うかもしれないが、もしそん時がきたらぶん殴ってやりたい。
まあ、実際にはやらないけどな、宮野たちに迷惑がかかるってのもあるが正面から殴りかかればまず間違いなく俺が負けるから。
だがまあ、とりあえず今は話を誤魔化しておこう。
「あー……他は何かあるか?」
「あ、はい。後は……強いていうのなら図書室に新しい本が増えたことと、購買の品揃えが少し変わったこと、くらいでしょうか?」
「品揃えはいいとして……新しい本なんてよく知ってんな」
「一応毎日図書室に通っていますから」
「……毎日?」
「? はい、そうです。毎日一冊づつ借りて読んでます」
「……真面目だなぁ」
俺も図書館に通ってはいたが、必要な情報を集め終えたらパタリと行かなくなった。
忙しかったってのもあるが、元々本を読むのはそれほど好きってほどでもなかったからな。
「まあいいや。とりあえず、今言ったのを回りながら適当に全体を歩く感じで行くか」
「はい。ではご案内します」
そうしてしばらく適当に会話をしながら学校内をまわったのだが、ついに下校時刻となり解散する流れになった。
「やっぱ広い学校だよな」
「そうですね。私も入学したての頃は驚きました」
そんなことを話しながら歩いていると、正門までたどり着気、宮野がこちらを向いて頭を下げた。
「本日はお越しいただきありがとうございました」
「いや、こっちにとってもいい話であるのは確かだし、一応同じチームに入ってんだからこれくらいの義理は通すさ」
「それじゃあ、また何かあったら連絡をくれ」
「はい、わかりました伊上さん。それでは、許可証が届きましたら後日またご連絡をさせていただきますね」
「ああわかった。それじゃあ、俺は行くわ」
「はい。これからよろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
そう言葉を交わすと、俺は宮野の見送りを受けて自分の住んでいるアパートへと帰っていった。
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