第11話私は大臣の娘ですの
そんな日から一週間ほどたったある日。
ダンジョンへ潜らない時は毎日やっている日課となっていたトレーニングを終えて部屋でダラダラしていると、突然電話がかかってきた。
誰だ? ……宮野? 宮野……ああ、宮野。
表記されている名前を見ても一瞬誰だかわからなかったが、そういえばチームに入ったんだったと思い出した。
そしてこれはそのチームのリーダーである少女からの電話だ。
俺たちは気軽に連絡を取り合うような間柄ではないのだから、おそらくは次のダンジョン攻略が決まったのだろうと思い電話に出る。
「はい、もしもし」
『あ、えっと、お久しぶりです伊上さん』
「ん、ああ久しぶりだな」
電話に出るとどこか戸惑いがちな宮野の声が聞こえたが、よく知らない大人に電話をかけるのだからこんなもんだろう。
『それで、あの……申し訳ありませんが、明日学校までお越しいただいてもよろしいでしょうか?』
「……は? ……あー、何でだ?」
『実はレポートを提出したのですが、内容が本当なのか疑問が出ると言う事で』
「……疑問なんて出るようなこと書いたのか?」
宮野の性格からして、報告を盛ったと言うこともないだろう。浅田と北原もそうだ。
吐いたことについては隠したかもしれないが、その程度では特別おかしな矛盾はでないはずだ。
それとも俺のあいつらへの評価が間違っていたのだろうか?
そう思い少し眉をひそめてしまったのだが、どうやらそれは違ったようだ。
『いえ、実は試験として提示されたダンジョンのいくつかは罠だったようで、初心者向けではなかったんですけど、私たちの言った小鬼の穴もその一つだったんです』
「だろうな。初めてのやつが入るにはあそこは向いてない」
だがまあ、なんとなく話が見えたな。
試験で罠にかかったにもかかわらず問題なくレポートを出したことで疑問ができた。そんなところか?
『そうですね。決めた時は評価をあげようと難度の高めのところを選んだんですけど、考えが足りませんでした』
「で、そんな初心者向けじゃないダンジョンで無事に生還した理由として目をつけられたってか?」
『大雑把に言ってしまうとそんな感じです』
これで助っ人が一級や特級だったらなんとも思われなかったのかもしれないが、俺は三級だ。それなりに経験を積んでいるとはいえ、三級では初心者というお荷物を抱えた状態ではクリアが難しいと判断されたんだろう。
で、その説明に俺に行ってほしいと。……めんどくせえ。
「……行かないと問題あるか?」
『いえ、特に何があるというわけでもないのですが……』
嘘だな。この声の感じからして、なんらかの処分……とまではいかないが対応はあるんだろう。少なくともそう仄めかされたはずだ。だからこんなはっきりしない返事になっている。
……あーくそ、仕方ない。めんどくさいが、チームメンバーになったんだ。ここで行かなければ不義理が過ぎるか。
「……はぁ、わかった。明日の何時だ?」
『いいんですか?』
「一応俺が冒険者止めるまでは同じチームなんだ。これくらいは仕事のうちだろ」
『ありがとうございます。でしたら明日の放課後……三時に校門のところに来ていただければ私が迎えに行きます』
「ん、了解。じゃあ明日また」
『はい。お手数おかけしますがよろしくお願いします』
そうして電話を切ると、俺は大きくため息を吐き出した。
「さってと、ここで待ち合わせのはずだが……ここも久しぶりだな」
翌日、電話で話した通り冒険者学校に来たのだが、正門の前には誰もいない。どうやら宮野はまだ来ていないようだ。
「前に来たのは四年以上前だから結構前だよな……」
一応俺もこの学校に通ってたことがある。一年だけだがな。
だが一年だけとは言っても、中退したわけじゃない。そういうシステムだっただけだ。
覚醒者として力に目覚めたからと言って、すぐに戦えるわけじゃない。だからその力の使い方を学ばせるために覚醒者は全員学校に通うことになるのだが、二十五歳以上の後天性覚醒者はほぼ全員が一年間だけの特別授業で色々と詰め込むことになる。
これは簡単に言うと、「お前達には期待していないけど、とりあえず決まりだから学校に通わせる」と言う意味だ。
それがなんでそんなんになってんのかってーと……
「そこのあなた。そこで何をしていらっしゃるのですか?」
「……俺か?」
考え事、と言うか思い出に耽っていると、突然聞き覚えのない声に問いかけられた。
視線を向けると、そこには学生服を着た少女がいた。
髪は暗めの茶色で、あー、なんて言ったか……シニヨン? そんな感じで整えてある。
「ええそうです。ここは部外者の立ち入りは禁止している場所ですの。あなたはこの学校の者には思えませんが、どのような御用でしょうか?」
ああ、そういう。まあ確かにおっさんが門の前で立ち止まってたら不審者に思われても仕方がないか。
……不審者、かぁ。自分で言っといてなんだが、なんだか悲しくなってくるな。
「あー……俺は一応ここの卒業生で、今日はここの生徒と約束して呼ばれたんだ」
「その生徒のお名前はお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「宮野瑞樹って子なんだけど……」
「……宮野さんの?」
「あー、知り合いか?」
「……ええ、まあ」
僅かに険しくなった表情と態度から察するに、いい意味での知り合いじゃない感じか?
……けどまあ、それがわかったところで俺が関わるようなことじゃないか。
「んんっ。……ここの卒業生と言う事は、冒険者なのですよね? 一応、冒険者証を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」
「ん、ああ。……これだ」
「失礼します」
俺が冒険者だとわかると心持ち雰囲気を柔らかくして話しかけてきたのだが、俺が差し出した冒険者証を見ると、途端に顔をしかめられた。なんだ?
「これは……あなた三級だったのですか」
「ああ。何か問題あるか?」
「いえ。……ですが、宮野さんはまたこのような方と付き合われているのですか。彼女の実力ならばもっと上を目指すことも可能だと言うのに……」
これはアレだな。階級で見下してる感じだ。
確かに三級なんて下手すりゃあ覚醒していない一般人にも負けるような雑魚だし、それは俺自身よーーーく分かってる。
だが、だとしてもこうして見下されるのはいい気分じゃないな、やっぱり。
まあ、いつものことって言えばいつものことなんだけどな。
「それで、あなたは何のようで来たのでしょう?」
「え? それは今言った宮野さんの──」
「そうではなく、彼女に会いに来た理由です」
「……なんでそこまで言わなきゃならないんだ?」
「三級程度の方が宮野さんのそばにいると彼女の格が落ちます。彼女は特級。もっと上に行くことのできる才能を持っています」
「で、それがどうした?」
「彼女が仲良しクラブのような状況に甘んじていると言うのはこの世界にとっての損失でしかありません。特級の彼女は、同じ特級である私と同じチームで活動するべきなのです」
「つまりは俺みたいな雑魚が一緒にいるのは気に入らないと」
「そうは言いませんが、もう一度よく考えるべきかとは思いますね」
「言ってんじゃねえか。それ、ほとんど同じ意味だろ」
つまりアレだ、こいつは特級には特級にふさわしい相手と付き合えと、そう言いたいんだろう。
そしてそれは、多分自分のことを言ってるんだろうな。三級を見下すってことは一級か特級だろうし。
「まあでも、彼女が誰と一緒にいるか、誰と付き合うかなんてのは彼女が自分で決めることだ。お前が言うことではないし、俺が頓着することでもない」
と言うかだ、宮野のチームは全員が一級以上だ。しっかりと『相応しい』メンバーだと思うけどな。
あ、相応しいのは俺以外な。俺はハズレだ。相応しくないと言われても仕方がない。
それに、もし同じチームで活動したいってんならこいつが宮野のチームに入ればいい。
冒険者ってのは基本的に四人から六人のチームを組むが、宮野達はもともと四人。そこに俺が入ったとしても五人だ。あと一枠空いている。
だから誰かが他に加入したとしても俺はそのことについて何も言わない。どうせすぐに離れることになるんだし。
「本気で気になるってんなら、自分が宮野と同じ班に入ればいいじゃないか」
「……離れる気はないと?」
「どうするかは俺が自分で決めることだ。ガキに言われたくらいで考えを変えると思ってんのか?」
「……そうですか。このてはあまり使いたくはありませんが……私は冒険大臣の娘ですの」
字面からするとリアリティーにかける感じがするが、最近になって、というかモンスターが現れるようになってから冒険者管理省なんてものが作られた。
冒険大臣ってのはそこのトップだ。決してなにかしらの冒険をしてる大臣じゃない。
そしてこのお嬢様はその大臣の娘らしい。
「そうか。それで?」
「……わかりませんか? 私がお父様に言えば、あなたの冒険者としての人生はおしまいですよ?」
……え、何? 三ヶ月待たずに冒険者辞めさせてくれんの? ありがとうございます?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます