第4章 落ちこぼれからの卒業④
「ねぇ、ベル。私も久しぶりにベルの家に行ってもいいかしら? 本当にヴィンダーがベルの家で練習しているのか見てみたいの」
シャルロットの申し出に、すぐに了解の意を示そうとしたベルはそこでチビの存在を思い出して返事に窮してしまう。
「どうしたの? ベル。私はベルの家に行っちゃだめ?」
悲しそうなシャルロットの声を聞いたベルは意を決して、
「ううん。大丈夫。シャルロットも今日、一緒に帰ろう」
そう言うので精一杯になるのだった。
「なぁんで、シャルロットまで一緒にいるんだよ?」
「何よ? 居ちゃ悪いわけ?」
その日の魔導院からの帰り道。ヴィンダーはベルがシャルロットと一緒にいることに不満を漏らしていた。ベルはそんな二人の様子を苦笑いしながら見ていた。
「おい、ベル。大丈夫なのか? その、チビのこと」
ヴィンダーが小声でベルに話しかける。ベルは困ったように笑うと、
「シャルロットなら、話せば分かってくれるはずよ」
そう返すのだった。
そんな話をしながら、三人でベルの家に着いた。どうやらヴァンじいさんはいつものチビのご飯を捕りに行っているようで留守だ。
家の扉の前に立ったベルは、シャルロットに向き直ると意を決して口を開いた。
「ねぇ、シャルロット。驚かないで見て欲しいんだけど……」
「なぁに?」
シャルロットの声に、ベルはゆっくりと家の扉を開いた。
中にはおとなしく留守番をしていたチビの姿がある。
きゅる……?
チビは見慣れないシャルロットの姿に声を上げた。そんなチビの姿にシャルロットは一瞬固まる。
「龍……?」
「うん」
シャルロットの言葉にベルが答えた。シャルロットはしばらくチビを見つめていたが、
「か、可愛い……! この子、ベルのペットなの?」
勢い込んでベルに話しかける。ベルは苦笑いを浮かべて、
「ペットではないの。この子の名前はチビ。大怪我をして森にいたところを助けたの」
ベルの話を聞いたシャルロットがへぇ~、と頷く。
「はじめまして、チビ。私はシャルロット。よろしくね」
きゅるっ!
シャルロットの言葉に返事をするようにチビが小さく鳴いた。その様子にシャルロットは喜んでいるようだ。
「でもベル。なんでチビの存在を隠しているの?」
シャルロットの疑問に答えたのはヴィンダーだった。
「こいつ、白龍だろ? だから、村のヤツに大怪我させられてたらしんだ。白龍はこの村じゃ価値がないだろ?」
「何よそれ……。酷すぎる……」
「俺、そう言うの許せないんだよ。だからシャルロットも、チビのことは誰にも言うなよ?」
ヴィンダーの説明を受けたシャルロットはしっかりと頷いた。
「そういうことなら、私、パパやママにも絶対に言わないわ」
ベルはそんなシャルロットに感謝しながら、自室に鞄を置きに行く。そして教科書だけを取り出して二人の元へと戻った。
「さぁてと、今日も修行するか! シャルロット、邪魔するなよ?」
「邪魔なんてしないわよ!」
ベルが戻ってくると、ヴィンダーはシャルロットに釘を刺した。シャルロットはそれが心外だったようだ。
この頃になると、ベルは片方の指輪ではなく、両手の指輪を外して指先に火を灯す練習を行っていた。これがうまくいけば、ようやく指輪から卒業することが出来る。
一方ヴィンダーは、疾風の刃の呪文に苦戦していた。ゆっくりと言うことは出来るようになっていたのだが、
「グリンデ・ゲ・ウェントス!」
繋げて言うと微妙に違う呪文になってしまっていた。
「何で言えねぇんだよ……!」
ヴィンダーは間違える度に悔しそうに下唇を噛んでいた。
そんな二人の様子を、チビとシャルロットは黙って見守っていたのだが、
「ヴィンダーって、呪文を覚えるのが苦手だったのね」
シャルロットは意外そうに口を開く。
「うるせぇ! この魔法はまだ教科書にも載っていない、ヴァンじいさんのとっておきなんだぞっ?」
ヴィンダーはシャルロットの言葉に食ってかかる勢いで反論する。
シャルロットが加わったことで賑やかに魔法の練習を行っていると、
「おやおや、シャルロットじゃないか。久しぶりじゃの」
家の扉が開き、ヴァンじいさんが帰ってきた。
「お邪魔しています、ヴァンじいさん」
シャルロットはぺこりとヴァンじいさんへお辞儀をした。ヴァンじいさんはそんなシャルロットをにこやかに出迎えてくれる。
「二人の魔法の練習はどうじゃ? 順調かの?」
話を振られたヴィンダーは少し苦い顔をした。まだ呪文がうまく言えないのだ。そんなヴィンダーとは対照的に、黙々と指先に火を灯す練習をしていたベルは、ヴァンじいさんたちに向かって、
「見て!」
突然声を上げた。
見るとそこには、指先に火を灯しているベルの姿がある。その両手にはもちろん指輪は存在しない。
「ベル!」
シャルロットは喜びのあまりベルへと抱きついた。
「これでようやく、私たちと一緒に魔法の勉強が出来るわね!」
シャルロットの言葉にベルも嬉しくなって笑顔を返す。そんな二人の様子をヴァンじいさんはにこにこと見守っていた。
チビはベルが喜んでいるのが伝わったのか、ベルとシャルロットの間に顔を近づける。
「チビも喜んでるみたいだな」
その様子をみたヴィンダーが言う。そんなヴィンダーの顔も笑顔だった。
「よくやったな、ベル。合格じゃよ」
ヴァンじいさんの言葉にベルはますます嬉しくなるのだった。
「二人ともいいなぁ。私も何か、ヴァンじいさんから魔法を教わりたい!」
シャルロットの言葉に、ヴァンじいさんはにこにことして、
「シャルロットはどんな魔法使いになりたいのじゃ?」
「私は、みんなを癒やせる魔法使いになりたいの」
「ほう」
シャルロットの言葉を聞いたヴァンじいさんは顎に手を当てて何かを考えている様子だった。
「シャルロット。ベルに癒やしの魔法を少し教えてやっては貰えんか?」
「ベルに?」
ヴァンじいさんの言葉に疑問符を浮かべるシャルロットに、ヴァンじいさんは続ける。
「人に物事を教えることも、また立派な修行になるんじゃよ」
ヴァンじいさんの言葉に、シャルロットは目を輝かせると、
「ベル! 一緒に頑張ろう!」
そう言ってベルに抱きつくのだった。
翌日。
ベルは魔導院にて早速指輪をはずすための試験を受けていた。この試験は、指輪なしで指先に火を灯すと言う基本的な魔法が使えるかどうかで合否が決まる。
先生と一対一での試験に、ベルの緊張はピークに達した。
(大丈夫、できる。私なら、できる)
「では、始めてください」
先生の言葉に、ベルは深呼吸をすると指をパチン、と鳴らした。
試験を終えたベルは、魔導院の門で待っていたヴィンダーとシャルロットの元へと駆けていた。
「ベル!」
二人がベルの足音に気付いて振り返る。
「どうだったんだ? 試験」
ヴィンダーが心配そうに言う。ベルはヴィンダーとシャルロットに向かって大きく笑顔で頷いた。
「じゃあ……!」
シャルロットが喜びの声を上げる。
「受かったんだな!」
ヴィンダーもベルの肩を叩きながらベルの健闘を称えた。
こうして、ベルはようやく指輪を卒業した。これで九歳の魔法使いたちは全員、指輪なしでのレッスンを行うことになるのだった。
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