gaze<視線>

冬迷硝子

gaze<視線>

「それで、先輩。どういうことですか?」


怪しげに腕組みをした。

まるでその質問を心待ちにしていたかのように。

でも先輩は無言でずっと眼を見詰めてきた。

変な気分になってしまいそうになったから重たい口を開く。


「あの、なにか顔に付いてます?」


先輩は首を横に振った。

ある意味、不気味だ。


「………あの」


そう切り出したはいいものの何を言えばいいか分からない。

ここで怒りに任せて先輩を追い詰めてしまってもいいかもしれない。

でもそれはそれでやってはいけない気がした。

それにここは茶屋。

大きな声を出してはいけない場所。

しかし変わらず先輩の威圧感は変わらない。

怖い。

恐怖。

その感情が出てしまえば、また逃げる方向へ走ってしまう。

それにここは茶屋だ。(以下略…)

なにがなんでも外さない気だろうか。

それとも一方的なにらめっこ?

そう思い、見詰め返したものの先輩の眼には見詰め返す僕しか映っていなかった。

時折、瞬きをしてはまた見詰めてくる。

これはいよいよ、やらかしてしまったかもしれない。

自分に不都合のある質問が来ると押し黙って相手を見詰め恐怖心か憤怒感か羞恥心を味合せる。

相手の出方によっては自分を追い込むこともあるのかもしれないのに。

でも、その考えはない。

先輩の目線は冷たい。

酷いと思われるかもしれないけどその目線はまるで自分で殺して人間を見るかのような視線。

にらめっこで勝てる要素は微塵もない。

たぶん負け知らずなのかもしれない。

そう考えても視線は外してはくれない。

だからって「トイレ行ってきます」なんて退場が許されるとは思えない。

仮にも先輩なんだ。

年上なんだ。

上下関係も熟知していない幼稚発言によって怒らせることだってあるかもしれない。

それとも今現在、怒っているのだろうか。

今一度、視線を合わせてみる。

今度はまっすぐにできるだけ瞬きをしないように。

先輩の眼に映る自分、その自分に映る先輩。

そんな無限回廊に囚われていたとき、先輩が視線を外した。


「………負けね」


そう呟いた。

負け?

やっぱりにらめっこでもしていたのか。

大人げないことをする。


「どういうことですか?」

「実験をしてたのよ。まぁ心理テストと言うべきかしら。二人が視線を合わせた時ずっと長い間、見詰めていた方が好きっていう気持ちが強いっていう」

「へ?」


本当にえ?だった。

それってつまり…。


「私はあなたが好きよ」


酷い焦燥感に襲われた。

酷い羞恥心に襲われた。

酷い放心状態に襲われた。

私はあなたが好き?

それって一体どういう―――。


「さぁ、帰りましょう?私たちもう恋人同士なんだから」

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