第6話 悟り

 どうやら、俺が引きこもってエロ絵を描きまくっている間に、人類は滅亡してしまったらしい。


 半透明な人型はそう言った。


「落ち着いて聞いてください。地球の生物は、貴方を残して全て死に絶えました。数百年前のことです」


 俺以外の生き物が全部死んだ?

 俺の母さんも、父さんも? 学生時代の友人たちも? 俺にトラウマを刻んだあの上司も?

 しかもそれは、数百年前のことだって?

 思考が全く追いつかない。


「我々は、地球より少し科学の進んだ惑星の知的生命体です。地球の生物と違い、時間や空間、量子を自在に制御する技術を有しています。我々は、地球の文化に愛着を持っていました。地球が戦争によって崩壊するとき、我々はどうしても地球の文化を守りたいと思いました。しかし、貴方を保護することで精一杯でした」


 半透明は続ける。


「我々は、貴方の味方です。どうしても、地球の文化を残したいと考えています。そのため、ずっと貴方を欺いていたことを許して欲しい。どうか、貴方がこの事実を知った上で地球の文化を創作し続けたいなら、我々はそれを、全力でサポートしたい」


 俺は、描かなくてはならない。


 全身に稲妻が走ったようだった。

 俺は、今生まれた意味を知った。

 人類がこの宇宙に存在した意味。俺が最後に残された意味。

 地球が存在し、様々な人が生きた証を、永遠に彼らに託すために。


 その日から、俺は変わった。

 相も変わらずに自分の部屋に引きこもって絵を描くだけの日々だが、今までとは明らかに違っている。

 俺の魂は澄み渡っていた。一日も怠けることなく、デッサンや模写の練習を続ける。色彩の勉強、あらゆる絵画のテクニックの習得。モチーフにするべき、精神性やメッセージ性の高い題材を得るため、座禅や瞑想にも取り組んだ。

 毎日が充実していた。

 そう、俺は分かったのだ。自らの運命を自覚したと言ってもいいだろう。


 俺が、最高の絵を遺す。それこそが、地球が存在した意味となるように。

 一点の曇りも無い、済んだ気持ちで、最高の絵を追い求める。


 そうして出来上がった作品は、幼いころ教科書で見た絵画と比べても遜色のない、歴史に名を刻む巨匠達の前に出しても恥ずかしくない、自分でも最高の作品だ。


 これならばきっと、俺を助けてくれた彼ら宇宙人も喜んでくれるだろう。


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