姉のおなかをふくらませるのは僕

坂井音太

第1話 鶏肉とナス玉ねぎピーマンのトマト煮込み(仮)

↓コンテ

https://www.pixiv.net/artworks/86908910



(擬音・吹き出し外文字)

「セリフ」

{人物モノローグ}

<ナレーション・モノローグ・解説>





●1

 夕方。

 住宅街の川沿いの道を歩く忍。

忍<ぼくの大好きな京子が大変だ──>

 立ち止まる忍。

忍<──ということに気がついたのはいつからだったろうか?>

 橋から下を覗きこんでいる京子。


●見開き

タイトル


●2

 ぶち抜き京子。

忍「……なに見てるの?」

京子「あ、忍」

 と気がつく。

京子「サギがちっさい鯉をパクパク食べてんだ」

 ゼスチャー。

忍<京子は>

忍<6年前、ぼくの母と再婚した父の娘>

忍<つまり姉だ>

忍「サギ? どこ?」

 と橋の欄干に飛びつくようにして下を見ようと乗り出そうとする。


●3

京子「あぶないよ、肉くわえた犬みたいに落ちるよ」

忍{……なにそれ?}

京子「落ちないようにささえたげる」

 と忍の後ろから抱きかかえるように密着して欄干から乗り出そうとする忍を支える。

忍{はっ}

忍{いつまでも小さな弟あつかいだ……}

 密着する京子の制服の胸のふくらみ。

京子「見て」

忍{無防備すぎる}


●4

京子「ほら」

忍{う、いい匂い……}

後頭部にかかる京子の息遣い。ドキドキする忍。

 護岸工事されて水路化した川の底から顔を出す石の上に二羽のサギが立ち、水の中の鯉を狙っている。

忍「あ、ほ、ほんとだ!」

 と、ひょい、パクっと鯉を丸呑みするサギ。

京子「ね? ひょいパク、ひょいパクって」

京子「ちょっと前に川がきれいになったのをアピールするために、町内会でここに鯉の稚魚を放流したんだけど……」

 と言ってるあいだも鯉を食べ続けるサギ。

京子「あ、いまので全滅した……」

 と感嘆する。

忍「……」

 ショックを受ける忍。


●5

忍<鯉が全滅するのを観察している女子高生>

忍<それが京子だ>

忍<つまりすごく変な……>

忍<大変な女の子>

京子「サギってすごい食べるね」

京子「ずっと見てたけどたった二羽で30匹くらいの稚魚を丸呑みしてたよ」

 川底から顔を出す石を伝いながら歩いて行く二羽のサギ。

京子「おなかいっぱいで飛べなくなってんのかな?」

京子「ホラ、動きも鈍くなってる気がする」

京子「今ならあいつら手づかみで捕まえられそうじゃない?」

忍「……どうだろう」

 と首をかしげる。

京子「川に降りて捕まえてみよっか?」

 と岸の金網フェンスを乗り越えようとよじのぼりかける。パンツ見えそう。

忍「やめなよ!」

 と恥ずかしそうに止める忍。

忍<心配でほっとけない

  ぼくがちゃんと守らないと──>



●6

 スーパー。

 二人、野菜売り場で物色しながら。

忍「今日何がいい?」

京子「アレをリクエスト」

京子「忍のオリジナル料理」

京子「鶏肉とトマトのヤツ」

京子「煮込み的な」

忍「アレかあ」

 肉売り場へ。

忍「ちょうど鶏肉が特売だ」

忍「胸肉でよい?」

京子「なんでもよいよ」

忍「トマト、ホールのほうが安いけどどうしよう?」

 と棚のエンドの特売コーナーに積み上がっているホールトマトの缶を見て。

京子「じゃあホールで」

京子「忍、お菓子買ってもいい?」

 エンドにあるデカいポッキーの箱を手に取って嬉しそうに。

忍「ダメ」


●7

 アパート。

京子「アタシがごはん炊いたげるね」

 玄関のカギを開ける。

忍「買い物出る前にもう炊き始めてるよ」

 中に入って靴を脱ぎながら。

京子「あれま」

京子「手際いいね」

京子「じゃあパソコンやろっと!」

 とパソコンを立ち上げる。

忍{京子は手際わるいんだよ……}

 と台所に立ち、買って来たものをビニール袋から取り出す。


●8-10

忍{まずボールに水を張って…}

忍{タマネギを1つ}

忍{一番外側を剥いて芯を抜いたらドボン…}


忍{それからナス2本を縦に8等分}

忍{すぐ炒めるからアク抜きはしない}

忍{ピーマン1つ8等分}

忍{鶏肉はモモでも手羽でもいいんだけど、一口サイズのぶつ切りにして…}


忍{水に漬けたタマネギは切っても涙出ないのだ}

忍{これはてきとうにみじん切り}


忍{ニンニクひとかけら薄くスライス}


忍{フライパンにオリーブオイルをタップリ…}

忍{強火でオリーブオイルが暖まったら}

忍{ナスを投入!}

忍{ナスがオイルを吸ってシンナリするまで炒める…}


忍{炒めたナスを一旦ボールにとっておいて…}


忍{オリーブオイルでスライスニンニクをかるーく炒める}

忍{香りが出てきたら鳥肉投入!}


京子「あ、ニンニク!」

 とパソコンから振り返る。

京子「匂うから入れないでよ~」

 と抗議。


忍「食べるとき避ければいいでしょ!」


忍{ニンニク入れたほうが絶対美味しいし……}

忍{んでピーマンとタマネギ入れて塩コショウで炒める…}


忍{だいたい火が通ったらホールトマトを入れて…}


忍{トマトが煮崩れたらさっきのナスをフライパンに戻す…}

忍{バジルと唐辛子入れて、ちょっと煮詰める}


忍{もちょっと塩コショウしよ……}

忍{よし!}


忍「できたよー」

 とカレー皿にご飯を盛る。


●11-16

京子「わーい」

 と食卓に着く。

忍「今日はカレーっぽく食べます」

 と盛りつけたカレー皿を出す。

京子「あ、お父さんとお母さんにゴハン!」

 とお仏飯用に皿を渡す。

忍「うん」

 と受け取る。

(ちーん)

 と京子、お供えして鐘を鳴らす。

京子「じゃあいただきます」

忍「はいどうぞ」

京子「はふはふ」

京子「おいしー!」

京子「あ、これパスタでもよくない?」


忍<京子がごはん食べてるところを見るのが好きだ>

 じっと京子を見ている忍。微笑。

 幸せそうな京子。

京子「今日なんでこれリクエストしたかわかる?」

忍「……?」

京子「サギ見てたら、なんかトリが食べたくなっちゃってさ」

忍「……」

 なんとも言えない顔。

京子「でもあのサギ、いい食べっぷりだったよね~」

 ゲラっと笑う京子。


 タオルで手をぬぐいながら奥の部屋に入ってくる京子。

京子「洗い物おわり!」

京子「あーあ、おなかいっぱい!」

 とおなかをさする。

京子「おなかいっぱいのサギのマネ」

 とすまし顔でソロリソロリと石伝いに川底を歩くサギのマネ。

忍「ちがうよ、こうだよ」

 と前傾姿勢でサギのマネをして歩く。

京子「あははは!」

京子「サギ捕まえた!」

 とふざけて忍に抱きつく。

忍「うわはは!」

 とくすぐったそうに笑いだす。

(ばたっ)

 と倒れ込む二人。

 だきついたまま忍の髪に顔をうずめる京子。

京子「んーー」

 と忍の髪のにおいを嗅ぐ。

 ドキドキしながら、

忍「……京子、やめてよ」

京子「え、なんで」

 と目を丸くして。

忍「僕だって男なんだから」

 と恥らい媚びるように睨みつけて。

京子「………」

 頬赤くしてポカンとしたように忍を見る。

京子「あんた最近生意気」

 と怒ったように恥らいつつプイっとそっぽ向く。

忍「……」

 気まずく沈黙の二人。

京子「そうだ忘れてた」

京子「さっきね、インターネットで調べたんだ」

 と何かを思い出す。

忍「?」

京子「忍のオリジナル料理、もしかしたらもうどこかの料理であるかもしれないって思って」

京子「そしたらやっぱりあったよ」

忍「えっ! もうあるの?」

 と驚く。

京子「あれアフリカ料理みたい」

京子「なんて名前だと思う?」

忍「さ、さあ?」

 すっと忍に近寄って、身体を寄せながら息を吹きかけるように耳打ちする京子。

(ひそっ)

京子「ちんちん」

京子「かー」

(かーっ)

 っと赤くなる忍。

忍「えっ? えっ?」

 とくすぐったそうに耳を押さえもう一方の手を自分の太ももの間に挟み込んでうろたえる。

京子「『チンチンカー』って料理なんだってさ」

忍「そ、そう……」



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