第21話「一身分体の術」
「真蔵仙人、昨夜、あいつらまたきたんだ」
仙界の村人達が騒いでいる。
「またか、まったく、こりずによく来るな~」
「なにが来たんですか?」
「天狗だよ、て・ん・ぐ」
「天狗?」
真蔵仙人がサトコに話している。
「そう、天狗。仙人になれなかった奴だ」
「天狗って、そういう人なんですか」
「仙草を食べて仙人になれなかったり、仙丹の作り方を間違えた奴らだ」
「元は人間なんですか?」
「元は人間だ。厳しい修行をしたが、性格が悪くて仙人になれなかったのが多いな」
「天狗は正義の味方じゃないんですか?」
「正義の味方は仙人だ! 天狗は戦争や争い事が大好きで、ちょっとたちの悪い奴らだ」
「そうなんですか?! てっきり良い人だと思ってました」
「仙草を食べて、仙骨のある者は仙人になれるが、性格の悪いものはなれない。たいがいは死ぬんだが、まれに魔物になったり天狗になる者がいる。生き残った者は神通力を持つ者が多い」
「性格が悪くて神通力を持つ者なんかいなければいいのに」
「それが、そうもいかないんだ。必要悪ってあるじゃろう」
「それは、何んですか?」
「世の中、優しい人ばかりだと、ズルい奴が現れる。弱い人を騙したり、力ずくで物を奪ったり、自分勝手な亊をする。法律さえ逆手にとる奴もいる。そんな奴を罰するのが天狗だ」
「ナマ○ゲみたいな者ですか? 悪い子はいねがーみたいな」
「まぁ、そんなもんかな。天狗は容赦しないから気に入らない人間は引き裂いて木に吊るしたりするぞ」
「恐ろしいですね」
「それくらいしないとズルい奴はいなくならない。今夜もたぶんくるぞ」
「何しに来るんですか?」
「仙界の桃が欲しいんじゃ」
「桃なら人間界にもあるのでは?」
「仙界の桃は不老長寿の秘薬じゃ」
「そういえば、仙人の絵によく桃が書かれていますね」
「お前にも食わせてやる。今が旬じゃ。天狗の奴も今の時期を狙って来るんじゃ」
「その桃は数が少ないのですか」
「仙界には、けっこうあるが仙界にいる者が食べる貴重な物だ。天狗にやる分はないな。今夜退治にいくぞ!」
「あたしも戦うんですか!?」
「あぁ、やってみろ。手頃な相手だ」
「天狗は、手頃ではないかと……」
「
「分身の術ですか?」
「そうだな、似たようなものかな。体はつながっていて、お前が動かすんだ」
「それは痛くないんですか?」
「痛くもかゆくもない。テレビゲームみたいなもので面白いぞ」
「テレビゲーム!? じゃぁ、やってみます」
「では、まず
「自分の人形を作るんですか?」
「そうだ、多少違ってもかまわんぞ。美人にして胸もでっかくしろ。お前の胸は……」
「どうせ、あたしの胸はAカップです」
サトコは美人なんだが、胸はあまりなかった。背も低い。
「気が練れたら体から出すんだ」
「どこから出すんですか?」
「たいがいは口からだな、鼻から出す奴もいるし、尻から出すのもいる」
「……口から出します」
サトコの口から白い煙りのようなものが出てきた。その煙りがだんだんと人の形になっていく。
「相手は天狗だ、2メートルはあるからな、お前も2メートルくらいのを作れ!」
白い煙りはだんだんと大きくなり人の形になってきた。
「顔は色っぽいのがいいな、胸と尻は大きくして腰はくびれさせるんじゃ。服装は、着物がいいな」
サトコは真蔵仙人に言われるままに気で自分の分身を作っていく。
身長2メートル、顔は色っぽく、胸と尻は大きく腰のくびれた着物を着た分身が出来上がった。
「なかなかいいじゃないか、武器も欲しいな、何か持たせろ」
「武器って、何があるんですか?」
「何でもいいぞ。刀でも槍でも銃でも好きな物を気で作れ」
「……あたし、武術はやったことないから……じゃあ、
「まぁ、いいじゃろう。今夜までに練習しておけ」
一身分体の術は、気を練って自分の分身を作る。この時の姿形は自由であるが、たいがいは自分そっくりに作る。これが出来て一人前の仙人と見られる。
大きさも自由だが、大きい物を作るにはそれだけ気が必要になるので並みの者では作れない。金丹を持つサトコは気が有り余っているので大きな物でも簡単に作れるのだ。
分身は見えないほど細い気で本人とつながっていて本人が動かす。分身自体に意思はなく、いわば有線で動かすロボットである。
「今夜までに自在に動かせるようにしておくんだぞ! 天狗は2~3人で来るからな。負けたら引き裂かれるぞ」
「引き裂くって……ナギナタってどう使えばいいんだろう? 天狗を斬るのかな……」
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