第39話 突入、バールバロン

「人間の食べる物、美味しかった」

「そう。そう言ってくれるなら作った甲斐があったってもんだわ」


 意外と仲良くなっていたモモちゃんとルールー。

 エルフの集落で普通に会話をしている二人を見て、俺は自分の考えていたことが取り越し苦労だと分かり安心のため息をついた。


 現在俺たちの眼前にはエルフたちが集結していた。

 女王を筆頭に、300人ほど。

 バールバロンに攻め込むには少なぎる気もするが、目的はあくまで聖王ただ一人。

 殺し合いの戦争ではない。


「他の兵士たちを押さえてもらえれば俺たちが聖王を何とかする。女王様は四聖と聖王以外の人間を頼む」

「分かった」

「ってことで、四聖と戦うのは俺たちだ。ルールーの『力の扉』は開いておいたし、勝てないにしても相手の攻撃を防ぐぐらいはできると思う。俺が聖王を倒すまで引き付けておいてくれ」


 俺の言葉に頷くモモちゃんたち。

 ルールーも素直に頷いている。


「でも、倒しちゃってもいいんでしょ?」

「勝てるなら倒してもいいけどさ、殺しちゃダメだぜ。あいつらも聖王に騙されているだけなんだからな」

「うん。あの子たちも騙されて困ってる。皆で助けてあげましょう!」


 義母さんが四聖を憐れんで、瞳をウルウルさせながらそう叫ぶ。


「ああ。俺たちの目的は聖王から世界を取り戻すことだ。他のことも全部守ってやろう」

「でもおにぃ、聖王を倒せたとしてその後のことはどうすんの? 聖王は敵でしたー、なんて誰も納得しないでしょ?」

「その点はちょっとした作戦があるんだよ。すでにそのための技能も習得している」

「ふーん。ま、いつものことだけど期待してるよ」

「おう」


 俺たちは女王の方へ向き、彼女に目で合図を送る。

 すると彼女はエルフの戦士たちに向かって口を開いた。


「今決戦が始まろうとしている。だが目的は人間を殺すことではない。極力命を奪うことは禁ずる。相手の命を奪う時は、自分たちの身に危険が迫った時だけだ。いいか? 敵を倒すのが目的ではない! 私たちの成すべきことは、彼らが聖王を倒すまでの時間稼ぎだ!」


 女王の言葉に「はっ」と短く答える戦士たち。

 そして最後に女王は言う。


「皆、死ぬな!」


 戦士たちの短い返事を聞いた女王は俺に目で合図を送ってくる。

 俺は頷き、空間の扉を開いた。


「なっ!?」


 穴の先には玉座があり――聖王がそこに鎮座している。

 雪崩れ込んでいくエルフたち。


 俺たちはそのまま四聖とぶつかりあう。


 奇襲を受けた四聖は一瞬戸惑うも、一瞬で冷静さを取り戻す。


「てめえ……エルフと手を組んで何のつもりだ!?」

「世界を救うつもりだよ!」


 俺の短剣を受け止めるのは、緑色の鎧を身に纏うウェイブ。

 彼は怒声を巻き散らしながら、剣を振るう。


 風の神剣……瞬時に、あるいは同時に斬撃を放つことができる剣か。

 俺の眼前には見えない刃が飛び交おうとしているのであろう。

 しかし俺はウェイブへ短剣を振り下ろし、その攻撃を阻止する。


「なっ!? 俺の剣より迅く動くだと!?」

「ビックリしただろ。でもビックリするのはまだこれからだぜ」


 相手の腹に向かって前蹴りを放つと、軽々と吹き飛んでいくウェイブ。

 また剣を振るおうとするが、相手の攻撃よりも素早く短剣で仕掛ける。


 こちらの速度に戸惑い続けているようだが、実はすでにウェイブの『力の扉』を閉じてしまっているのだ。

 俺の速度もあるのだが、相手が遅くなっているのもあり、その差は歴然としていた。


 バトルマギの力で詰め寄る俺。

 ウェイブは辛うじてこちらの攻撃を受け止めるも、片膝をついたまま起き上がることができないようだ。


「聖王はお前たちを……いや、世界そのものを騙している。あいつを守るのはお門違いってもんだぜ」

「何を言ってやがる! 聖王様は人間を守る使命を負う、気高きお方なんだよ! 蛮族に何を吹き込まれたか知らねえが、聖王様を侮辱するのは許さねえ!」

「やっぱり話をしても無駄か。じゃ、悪いけどこのまま寝ててもらうぜ」

「舐めんじゃねえ! 俺は四聖の――」


 俺は左手をウェイブの頭にかざし、『意識の扉』を閉じる。

 

「な、なんだ……これは……」

「全部終わったら起こしてやるからな。四聖は激務続きという話を聞いたことがある。だから今は休憩でもしてろ」

「ふ、ふざけ……」


 パタンと眠りにつくウェイブ。

 意識の扉は、その名の如く相手の意識を操作することができる技能だ。

 その力でウェイブの意識を刈り取り、眠りにつかせた。

 

「す、凄いぞ……あのムウという男、本当に凄いぞ!」

「ベヒーモスを軽々と倒したと聞いているが、化け物のような四聖を子供扱いしたところも見ると、どうやらあの話は真実のようだな」

「あいつがいればこの戦い、俺たちは勝てるぞ!」


 エルフの戦士たちは俺の強さを垣間見て、自らを鼓舞していく。

 彼ら全員の『力の扉』は開いているので、人間の戦士相手に一方的に押していた。


 俺はこの大騒ぎの中、置物のように静かに玉座に鎮座する聖王様の方に視線を向ける。

 聖王は微動だにせず、こちらに微笑を浮かべているだけだ。


「世界の真実を聞いた。お前は絶対にぶっ飛ばす」

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