第30話 アサシンコボルト

 モモちゃんのご飯を食べてぐっすり眠った翌日の朝。

 ベヒーモス討伐の依頼を進行させるべく、俺たちはホライゾンの町へとやって来ていた。

 天気はどんよりとした空で、眠気はまだ抜けきっていない。

 義母さんはまだ半分眠っている状態で俺に背負われている。


「ほらママ。もう起きてよ」

「うーん……後一日ぐらいだけ」

「どれだけ寝るつもり!? そんなに寝たらまた小さくなっちゃうんじゃない?」

「もう小さくならないもん」


 起きる気配のない義母さんに、モモちゃんはやれやれと肩を竦める。

 義姉ちゃんは義姉ちゃんで、俺と腕を組みながら寝ぼけ眼だ。


 俺もあくびをしながら、モモちゃんについて歩いて行く。


「本当、皆だらしないんだから。私がしっかりしないとどうしようもないわね」

「モモちゃんには感謝してるぜ。モモちゃんがいるから家計もなんとかなってるみたいだしな」

「ママは欲しい物はポンポン買っちゃうし、お姉ちゃんはこっそり買い物するしね。おにぃは……計算は得意じゃないけど、無駄使いはしないね」

「家の状態のことはよく知ってるつもりだったからな。我慢しなきゃならなかったから」

「本当、ママとお姉ちゃんだらしないな……下の二人の方がしっかりしてるなんて、ありえない」


 頬を膨らませてプンプン言うモモちゃんは可愛かった。

 彼女の隣をほっこりとしながら歩く。


 天気は良くないが気分はいい。

 俺たちはそのまま舗装されていない道を進んで行く。


 周囲には草が生えており、ぽつぽつそこら中に木々が顔を覗かせている。

 太陽の光は届いてこないが、温かい気温を保っていた。

 自然の香りも心地よく、冒険のはずなのにピクニック気分。


 後はモンスターが現れなかったら言うこと無いんだけど……

 そう言うわけにはいかないよな。


 町を出るとすぐにモンスターの姿があった。

 またアーマーオークだ。

 それにナイフを両手に構え、二足歩行をする犬型モンスター、アサシンコボルトもいる。


「アサシンコボルトは気配を遮断して近づいて来るから気をつけろよ」

「オッケー。おにぃはママが起きるまで見学でもしててよ」


 本当にモモちゃんは心強い。

 しっかりしていて皆の面倒を見てくれる、まるで母のようでもある。

 一番下なのに一番頼りがいのある義妹の背中を、俺は見つめていた。


 アサシンコボルトは俺たちの姿を確認するなり、いきなりこちらに駆け出して来る。

 気配が薄くなっている……あからさまに殺しにかかっているはずなのに、殺気を感じない。

 最初からその姿を目で捉えていたから良かったが、これが潜んでやって来たとしたら……少々面倒だな。


 正面からぶつかるモモちゃんとアサシンコボルト。

 実力自体はモモちゃんの方が断然上のようで、コボルトの二本のナイフを避けて、相手の頭部を切り落とす。


「私は料理に手抜きしないから。たとえそれが不味そうな素材でもね!」


 見える範囲にモンスターは5匹ほどいる。

 モモちゃんは素早い動きで相手に近づいてゆき、その頭を跳ね飛ばしていく。

 ゾクリとするほどの切れ味を見せるモモちゃんの包丁。

 彼女を怒らせたら、あの包丁が飛んでくるのか……

 うん。モモちゃんを怒らせるようなことは止めておこう。


 モンスターを軽々と倒して行くモモちゃん。

 しかし背後からアサシンコボルトが接近してきていた。


「モ――」


 俺はモモちゃんにそのことを伝えようと口を開いた。

 しかしその前にモモちゃんは、背後から近づくアサシンコボルトの首をはねてしまう。


「……モモちゃん、すげー。よく敵が後ろにいるって分かったな」

「んー、何となくだけど視えたんだよね。気配? みたいなやつ」


 これはモモちゃんの技能が進化したのではないのだろうか?

 『成長の扉』が開いていることと、戦闘を繰り返していたことにより、目利きコノシュアーの力がさらに開花した。

 相手の気配まで視えるようになったのなら、モモちゃんに奇襲は通用しないってことか。


 俺はそんなモモちゃんの新たな力に胸を高鳴らせていた。

 義母さんも義姉ちゃんも強くなってきてるし、この調子なら最強のパーティーが出来上がるんじゃないのか?

 俺は軽い興奮を覚え、今すぐに戦いたい気分になっていた。


 すると丁度義母さんが目を覚ましたので、俺は彼女を下におろす。


「おはよう、義母さん」

「おはよう、ムウちゃん……って、ここはどこ?」

「もうホライゾンを超えたところだよ。ちょっと戦ってくるから義姉ちゃんから離れないでくれ!」

「あんまり無理しないでねー」

「おう!」


 義姉ちゃんはしゃんとしだし、二本の杖を振るい、アサシンコボルトに対して、犬の姿を描き出す。

 風で描かれたその犬は、四本の足に炎を纏っている。

 犬は敵の姿を察知する能力でもあるのか、隠れているアサシンコボルトを炎の爪で切り裂いて行く。


 おお……描くものによって、持っている能力も違うのか。

 俺は義姉ちゃんの技能に関心しながら敵に接近していく。


 俺たちはまだまだ強くなる。

 となれば、次に問題となってくるのは……武器だな。


 俺は敵を倒しながら、皆の武器をどうするか。

 ワクワクした気分でそればかりを思案していた。

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