第20話 モモVSデーモンド①
「死ねえええ!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ……」
やっぱり臭い。
これはどうしようもないぞ。
庭には肉の処理をしているのか、血が散乱しているし肉の腐った臭いが充満している。
だが男たちはそんな臭いを気にすることなくこちらに向かって来ていた。
鼻どうなってんの?
俺は再び鼻を指で押さえ、男たちの『力の扉』を閉じていく。
男たちの胸当たりに黒いモヤのようなものが生じ、動きがガクンと悪くなり始めた。
それに気づかずこちらに接近する男たち。
俺は最初に飛び込んで来た男の足を引っ掛け、その場に倒し、足で背中を踏みつける。
続いて剣を振り回す男の手を取り、クルリと体を回転させ頭から地面に落とし、意識を刈った。
さらに続く相手の顔面に右拳を直撃させると糸が切れた人形のようにパタンと倒れてしまう。
そこで男たちは俺が強いことに気が付いたらしく、一度攻撃の手を止める。
「こ、こいつ強いぞ……」
「やめといた方がいいと思うぞ。俺とお前たちじゃ話にならない。いいからさっさとデーモンドを出せ」
「……デ、デーモンドさんに命令されてんだよ」
男たちは青い顔をしているのに、必死の形相で俺を睨み付ける。
そしてジリジリと距離を詰めてきたかと思うと、武器を振り上げて一斉にかかって来た。
「デーモンドさんの命令だ! やるぞ!」
「おおっ!」
なんだよこいつら。
まるで何かに取り憑かれたかのような目をしている。
何が何でも俺を殺そうという覚悟のようなものがあった。
しかしそんな気持ちでかかってきたところで、俺と彼らの実力の差が埋まるわけではない。
鬼気迫る様子で駆けて来る男たちだが、軽く俺にあしらわれるのであった。
◇◇◇◇◇◇◇
「このっ!」
包丁をデーモンドの懐から振り上げるモモ。
デーモンドはそれを寸前のところでかわし、左拳でモモの顔を狙う。
「モモちゃん!」
心配をするミリーをよそに、モモはその拳を回避し、さらに包丁で切りかかる。
相手の攻撃を見切ることができるモモにとっては、どうという攻撃ではない。
余裕を見せながら連続で包丁を振り回すモモ。
しかしデーモンドも余裕があるようで、ニヤニヤしながらモモの攻撃を回避していく。
「その笑い顔、やめてよね!」
ブンッと空振りに終わるモモの攻撃。
デーモンドは半眼でジローっとモモを見ながら笑い続ける。
「この顔には慣れてもらうぜ。これからずっと一緒なんだからな」
「ふざけんなっての! あんたとはここでお別れよ!」
モモは飛び上がり、全力で包丁を振るう。
デーモンドは笑みを崩すことなく、今度は聖剣を抜き取り包丁を迎え撃つ。
「!?」
モモはその聖剣の放つ熱波に顔を歪め、攻撃の手を引く。
地面に着地するや否や、パッと飛び退いた。
「どうやら勘がいいみたいだな。包丁がこいつに触れてたら、お前の腕ごと真っ二つだったぜ」
「…………」
聖剣バーンダイト。
モモが所持している程度の包丁ならば、抵抗なく簡単に切断が可能。
「どうした? さっきまでの威勢は?」
燃え盛る聖剣。
その火力は鉄を軽々と溶かし、神器に迫る切れ味があるという。
あれを避け続けることはできるかも知れないが、掠るだけでも致命傷になりそうだ。
モモはゴクリと唾液を飲み込み、ゆっくりとすり足で後ずさる。
デーモンドはそんな怯えるモモの姿を見て、歓喜に震えていた。
彼の父親は母親に暴力を振るい続け、デーモンド自身もいつからか彼の暴力によって精神を支配されてきた。
だがある日のこと、父親よりも恵まれた体格と力があることを理解したデーモンドは反撃に出る。
結果、圧勝で父親を撲殺。
ついでに母親も殴り殺し、その時の二人の恐怖に顔を歪め懇願する表情が忘れられず、その日から自分に屈服する人間に悦びを感じるようになった。
そして目の前にいるこの女も、後ほんの少しの時間でこれまでの奴らと同じようになる。
怯え、そして許しを請うようにへつらうようになるのだ。
それがとてつもなく面白く、腹の底から笑うデーモンド。
だがモモはそんなデーモンドの態度にカチンときて、後ずさっていた足を大きく前方に踏み出した。
「あんたみたいな奴に、負けないから!」
「モモちゃん……もう帰りましょ」
ミリーは青い顔をヒクつかせ、できるだけ冷静な声で言う。
だがモモはそんなミリーの言葉を聞くことなく、全力で駆け出した。
片腕ぐらい無くなっても、顔が無事ならそれでいいだろう。
そう考えるデーモンドは、聖剣を力強く縦に振る。
「どれだけ強い武器を持ってたとしても――」
軌道を読み、寸前のところで剣を避けたモモは、包丁でデーモンドの手首を狙う。
この剣さえなければこんな奴……
そう考えるモモは容赦なく包丁を加速させた。
「中々やるみたいだな。でも――」
「――っ!?」
突如、モモを襲う衝撃。
彼女の体は吹き飛ばされ、そのまま壁まで弾き飛ばされてしまう。
「相手は一人じゃないんだぞ」
「……ギミー」
ギミーの杖から煙が上がっている。
モモを襲ったのは、ギミーの魔術であった。
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