第255話 白桃女子のくせ者リードオフマン①

試合が始まり、1回表の白桃女子の攻撃が始まる。伊集院乃愛は先頭打者として打席に向かった。


基本的に白桃女子は乃愛のワンマンチームである。それは選手としてチームの中で能力がずば抜けているという意味ではもちろんのこと、スタメン決定や継投のタイミング、守備シフトまで、ほとんどがキャプテンの乃愛に一任されている。


白桃女子はお世辞にも野球に力を入れていると言い難く、創部してから乃愛が入学するまでは出場した大会では3大会連続で岡山県大会初戦敗退を喫していた。なんなら初戦敗退した年はまだ野球部としてはよく頑張っていた方で、部員不足で大会に出られなかったことが5度あった。


今監督をしているのは野球のルールもよくわかっていない、のんびりとした感じの新任の女性美術教師で、正直あんまり頼りがいのある人とは言い難い。それでも野球部の顧問になりたがる人がいなかったのに受け持ってくれた優しい先生に、乃愛たち野球部員は感謝していた。


とはいえ、野球のルールをよく知らないから采配はまったくできないため、作戦関連は全部乃愛に任されている。


野球部顧問になってもらったばかりの頃は、さすがに部員が采配を振るう訳には行かないと思い乃愛も監督に任せていたのだが、選手交代で一度ベンチに戻った子をもう一度試合に出そうとしたり、間違えて外野を5人で守らせたりして大変だったから、結局乃愛が采配することになったのだ。


実際、乃愛の采配は優秀で、昨夏に学校として初勝利を飾ってからは、昨夏昨秋今春今夏の4大会で9勝4敗。乃愛が入るまで未勝利だった弱小校が一変した。


ちなみに、乃愛が自分のことを1番に置いているのは、ただたくさん打順が回るからというその1点の理由だけである。自身の足が特別速いとは思わない。


チーム内にあまり頼れる子がいない現状で、どうせ乃愛が自身を中軸に置いたところで前にランナーがいなければ意味がない。それならば、自身がチャンスメイクして、バントや内野ゴロで返してもらって得点を重ねていく方が勝率はあがるのだ。

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