第236話 アクシデント②
「うちの野球部が1,2回戦を勝てた要因として、エースの湊の存在はかなり大きいと思うんだよな」
「そりゃそうですよ! 由里香さんがマウンド上で華麗に投げてくれたからこそ、ここまで来れたんですもん! 私たちはただ見守ってるだけなのに一人の力で勝ってくれる由里香さんのかっこよさと来たらもう……」
「いや、別にそこまでは言ってねえよ……。お前ら野手陣もよく打ってくれたとは思うぞ……」
華菜が恍惚とした表情で語りだしたので、少し引き気味に富瀬が野手陣のフォローを入れた。
「まあそれはさておき、準決勝以降、湊には万全の状態で投げてもらいたい。この先を勝ち抜くには湊の力が絶対に必要になってくる」
「せやせや。由里香には準々決勝も準決勝も決勝も地区大会も全部投げ抜いてもらえるようにうちらも支えたらんとアカンで!」
「雲ヶ丘、良いこと言うじゃねえか!」
「せやろ、さすがうちって感じやろ」
凄美恋がドヤ顔で答える。そんな凄美恋を見ながら、富瀬が満面の笑みで話し出した。
「ああ、ほんとそうだな。というわけで、雲ヶ丘には明日の準々決勝で先発してもらって湊のことを支えてあげて欲しいと思ってるんだよ」
「……はい?」
富瀬の提案に凄美恋が露骨に不快そうな顔をしたけど、華菜はつい先程までの美乃梨との話が脳裏に浮かんでいた。
(これが美乃梨先輩の言う奥の手ってこと……?)
由里香のスタミナ不足を補う一番有効で、かつ一番現実的な方法は凄美恋の投球回を増やし、それによって由里香がマウンドに立つ機会を減らすこと。
確かにそうかもしないけど、それなら1,2回戦も凄美恋にも投げさせておいた方が良かったのではないだろうかという疑問が浮かんでしまう。ただ、富瀬のことだし何らかの意図があったのかもしれないと思い、その考えは一旦飲み込んでおいた。
華菜が考えている間も、凄美恋は不機嫌そうに富瀬に文句を言う。
「なんでうちが投げることになんねん……。うちは投げたくないってずーーーーーーーーーーーーーーーーーっと言ってるやんか!」
両手をグッと握って前のめりで怒っている凄美恋に、富瀬が珍しく深刻そうな顔をして説明する。
「
「事情って何やねん……?」
凄美恋が不安そうな顔で尋ねると、富瀬は華菜と凄美恋に向かって手招きをして、顔を近づけさせてから、口の横に手を置いてヒソヒソ声で話し出した。
「まあ、準々決勝を前にしてお前らの士気に関わってくるから、本当はここだけの話にして欲しいんだけどな……」
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