第237話 アクシデント③
「実は湊が肩に張りがあるらしいから準々決勝は登板回避させようと思ってるんだ」
「「えぇっ!?」」
華菜も凄美恋も同時に驚いた。初耳だし、由里香が投げられないとなると、チームにとって致命的なダメージになってしまう。
「け、けど……、昨日の試合の時は普通に投げとったやん……」
「試合中は調子が悪くても案外わかんねえからな。アドレナリン出まくってるから痛みがあっても全く気になんねえんだよ。それに責任感の強い湊のことだから不調でも言い出せなかったんだろうな」
富瀬は腕を組んでうんうん、頷きながら話していた。
「由里香さんが試合に出られないんだったら私たちどうなっちゃうんですか……。ボコボコにやられちゃいますよ……」
仮に準々決勝を突破出来ても、由里香無しでは準決勝や決勝まで勝ち進んだ際に当たる可能性のある星空学園、皐月女子、岡山文学館あたりの学校に勝てるわけがない。
「ていうかそもそも由里香おらんかったら人数足らんから試合出られへんやん」
「ほんとだ! わたしたち9人しかいないんだから試合できないじゃないの!」
「今更きづいたんかい……。華菜って由里香が関わってくるとなんかポンコツになってへん……?」
凄美恋のツッコミが入ったところで富瀬がまた会話に入ってくる。
「まあ、明日の試合が終われば準決勝まで1週間の期間はあるし、湊も1試合登板回避すれば問題ない程度ではあるんだよ。それに、一応外野手としては出れそうだから試合自体は問題ない」
「なるほど。それで凄美恋が準々決勝は先発するってことですね。わかりました。それで行きましょう!」
「ちょ、なんで華菜が答えてんねん! 当事者はうちやんか!」
「どうせあんたが投げる以外に道はないじゃないの」
「そうだぞ、小峰の言う通りだ。雲ヶ丘が投げるしかうちが勝つ方法はねえんだから諦めろ」
「はあ? もっとなんかあるやろ! 他にも良い方法が……、良い方法が……、えっと……」
凄美恋が頭を抑えながら考えるけど、まったく何も思いつかないのか、静かになってしまった。
「ねえ、凄美恋、お願い。わたし、絶対に岡山県大会を勝ち抜きたいの! どうか凄美恋様のお力添えを!」
「まあ、どのみち監督命令だし雲ヶ丘に拒否権はねえからな。何か名案思いついたところでお前に投げさせるぞ」
華菜と富瀬が各々真剣なのかふざけているのかわからないような説得を試みるので凄美恋もなんだかわけがわからなくなってきた。
「ちょ……。はぁ、もうええわ。わかった、うちが投げればええんやろ!」
凄美恋がため息をつきながらも渋々了承した。投げやり気味とはいえ、今までに比べればかなりスムーズに納得してくれた。由里香が投げられないという緊急事態ということもあるのだろうけど、凄美恋自身がここまで少しずつ練習試合で試合を作れるようになってきて、投手に対して前向きになってくれているのかもしれない。もし投手に対して前向きになってくれているのだったら嬉しいな、と華菜は思う。
「じゃあ、よろしく頼むぞ」
「打たれて負けてもうちのせいにせんとってや」
「あんたね、試合前に先発ピッチャーが弱気なこと言わないでよ!」
「はいはい。明日お腹痛くなって休むかもしれへんけど文句言わんとってなー」
とても不安なことを言いながら部屋から出ようとする凄美恋に富瀬が声をかけた。
「おい、雲ヶ丘。グラウンドに戻ったら湊を呼んできてくれ」
「はいはーい」
そのまま凄美恋は華菜たちに背を向けながら右手を上げて出て行ってしまった。
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