第224話 就寝前のあれこれ⑤

「千早? どうかしたの?」


「ねえ、華菜ちゃん。さっきの話……」


「さっきのってスイングの話?」


「あ、違うの。もっと前の話」


千早が勢いよく首を横に振ったけど、華菜はどの話か分からずに首を傾げた。


千早とは打撃の話しかしていないと思うけどと会話を振り返っていると、千早が小さな声で呟く。


「恋バナ……」


「恋バナ?」


千早の意図がわからず何も考えずに復唱した。


「華菜ちゃんは本当に今好きな人いないの?」


「いないけど、いきなりどうしたのよ?」


華菜は穏やかな笑みを千早に向けた。


「うん、なんだか安心しちゃって……」


「安心ってどういうことよ?」


「千早も好きな子いなくて、ていうか恋愛とかそういう感情がわからなくて怖かったんだよね……。中学のときもクラスのみんなが好きな人の話とかで盛り上がっていてもよくわからなかったし、男の子に好きって言われても、どういう感情なのかわからなかったりして、困ってたんだ……」


「ふふっ、そうなのね」


緊張して千早が伝えてきたから一体何を打ち明けられるのか少し身構えていたけど、思っていたよりもずっと可愛らしい内容で安心して、思わず笑みをこぼしてしまった。


「大丈夫よ、わたしだってずっと湊唯選手とか由里香さんとかばっかり追っていて全然彼氏とか作ったことないし、恋心だってもったことないから」


華菜も千早と同じように、まだ恋人なんて作ったことはなかった。男子に告白されても、今は恋愛よりもとにかく野球が上手くなりたいという気持ちで頑張ってきたのだから。


「だからあんまり気にせず、今はお互い全国大会出場目指して頑張りましょう」


そう言って華菜が千早に手を差し伸べると、千早もその手を取る。そのままのんびりと宿泊施設の中へと2人一緒に戻っていった。






第2章 夏合宿 終

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