第222話 就寝前のあれこれ③

「グエッ!」


華菜がすっかり眠っていると、突然お腹の辺りに衝撃を受けて、変な声が出てしまう。


「ちょ、何……」


座り直すとお腹に乗っていたものがずれ落ちて、ドンと大きな音を立てて布団に落ちた。何ごとかと思って慌てて起きて見たら、寝相が悪くて変な向きで寝ていた凄美恋の足が華菜のお腹の上に乗っかっていた。


「まったく……」


もう一度寝ようとしたときに、凄美恋と反対方向の隣で寝ていた千早がいなくなっていることに気づいた。


「あれ? 千早……?」


どこに行ったのだろうかと不安になり、華菜はみんなを起こさないように静かに部屋の外に出た。


こんな夜遅くに一人で外出とかしていなければいいのだけど、と思って共用玄関を確認すると千早の靴が無くなっていた。


「ちょっと、あの子こんな時間にどこ行ったのよ……!」


華菜が慌てて靴を履いて外に出ようとすると、合宿所の敷地外に出る前に千早の姿は見つけられた。みんなが寝ているというのに、千早は一人で合宿所の庭で素振りをしていた。


「あれ? 華菜ちゃんどうしたの?」


千早がバットを振る手を止めて呑気な調子で尋ねてきた。


「どうしたのって……。千早がいなくなっちゃったから心配して探しに来たんじゃないのよ」


呆れながらもとりあえず華菜は千早が見つかったことに安堵した。


「え? ごめんね。千早が部屋から出た時に華菜ちゃんのこと、もしかして起こしちゃったかな?」


「いや、わたしのこと起こしたのは千早じゃないから大丈夫よ……」


申し訳なさそうに謝る千早に、華菜は首を横に振った。脳裏には無遠慮に乗っかっていた凄美恋の足の映像が残っていて、ため息をついた。

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