第221話 就寝前のあれこれ②

「あら、せっかくの合宿なのですから、桜子さんもお堅いこと言わずに恋バナとやらに参加したらいいではありませんか」


怜のクスクスという小さな笑いが静かな部屋の中に響き渡った。


「か、からかわないでください。私には好きな人なんていませんので!」


「あら、そうでしたの? 良かったですわね、華菜さん」


思わぬ流れ弾に華菜が慌てた。


「ちょっと、なんでわたしに話を振るんですか!」


「えー、華菜って桜子のことが好きなん?」


凄美恋が横から入ってきて話をややこしくする。当然怜が良かったですわね、といったのは桜子がフリーだからという意味ではない。華菜が愛してやまない由里香のことを言ったのである。


「ちょっと、凄美恋。話をややこしくしないでよ」


「そうですよ、雲ヶ丘さん。よりによってライバルの小峰さんとそんな関係にさせないでください!」


ライバルと言われてどうして同じチーム内でポジションも違うのにライバル扱いされるのだろうかと華菜は疑問に思ったが、それを聞く前に凄美恋がつまらなさそうに口を開く。


「なんや、違うんや。で、華菜は誰が好きやねん?」


「いや、わたしだって別に好きな人なんていないわよ……」


「あれ、由里香のこと好きちゃうの?」


「いや、由里香さんのことは――」


好きだけど、恋愛としてではなく憧れの先輩としてだと言おうとしたのに、その途中で美乃梨が会話に入ってくる。


「湊さんに会うために同じ高校に追いかけてくるくらい大好きで愛してるんだよね」


「え、まあ間違ってはないですけど……」


その答えを聞いて、桜子が声を荒げる。


「小峰さん、やっぱりあなたと言う人は……!」


「わたし桜子先輩を怒らせるようなこと何かいいましたっけ……」


そんなややこしいやり取りを聞いて、怜だけが楽しそうに口を押さえて音を立てずに笑っていた。


「ていうか、もうそんなことはどうでもいいから! 明日も早いんだし、変なこと言ってないで早く寝ましょ」


なんだか面倒になってきたので、華菜が無理やり会話を終わらせた。


「あ、ちょっと小峰さん! まだ話は途中ですよ!」 


「桜子ー、もう寝ようや。なんか恋バナしてたら眠なってきたわ」


「雲ヶ丘さんはどんだけマイペースなんですか!」


結局ごたごたの間に、突然始まった謎の恋バナ大会は終わり、桜子の中での華菜への誤解が解けないまま、それぞれ眠りにつくのだった。


ちなみにこれだけ由里香関係のことで盛り上がっていたのに、当の由里香本人はすでに熟睡していたという……。

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