第214話 秘密の居残り練習①
「
全員での練習が終わった後、いつもなら真希と咲希だけ残って守備練習をしているのだが、今日は富瀬が忙しいらしい。
どちらも苗字が菱野だから菱野たちという表現に少し違和感はあったが、面倒だから2人ともそこには触れなかった。
「しょーがないですねー」
「私たちも早く帰れるならその方が助かりますので、それでいいですよ……」
真希も咲希もそう言って、富瀬を送り出す。
富瀬が去って、グラウンドに2人だけになってから、咲希が言う。
「私たちもはやく上手くなりたいのに、守備練習できなくて残念だねー」
「そうね、2人だけで練習やる……?」
「おねーちゃん、わたしノッカーできないよー」
「わたしも……」
口では練習をめんどくさいと言ってはいるが、真希は自身と妹の咲希の上達がチームの勝利には不可欠であることは良く知っている。みんなよりも多く練習して、一日でも早く上手くなりたかった。
とはいえ、バッティング技術が皆無な2人には器用に狙った場所にノックを打つ技術もない。
「どうしようもないし、今日は諦めて帰るしかないわね……」
「そーだねー。……あ、そーいえばおねーちゃん、今日の分、今のうちにしとこー」
ガッカリした真希に、咲希が提案した。グラウンドには今は真希と咲希の2人だけだったから、今のうちに日課の口づけを交わす。
そこに恋愛感情はない。ただ2人の身を守るための、習慣以上の意味はないキス……。
咲希がすでに目を瞑っていたので、真希はそこに口づけをする。真希と咲希がいつもしている誰にもバレてはいけない秘密(怜にはバレて野球部に入部させられるきっかけを作らせてしまったけど……)。
練習終わりで汗ばんだ状態にはなってしまうが、合宿中は2人きりになる場所を見つけるのが大変なのだから、贅沢は言えない。
夕方の、ほんの少しだけ暑さを和らげる風が吹き抜けるなかでそっとキスをする。
汗の匂いが鼻孔をくすぐるが、嫌な気持ちはしなかった。真希にとって大好きな妹の匂いが不快なものであるはずはない。もちろん、大好きというのは同じ日に生まれた姉妹として、という意味ではあるが。
そんなことをしていると、少し離れた場所から突然声がした。
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