第213話 食事もトレーニング!③

「わたしの球なんて捕ったって意味ないと思いますよ?」


投球をしてみるも、投手としての能力が皆無な華菜の球は練習になるのかどうか分からないくらい弱弱しい。まったく球威のない棒球が桜子のミットに吸い込まれていく。


「小峰さんの球でも何もしないよりもはマシですから」


「マシって……」


苦笑しながらも華菜は投げ続ける。桜子が華菜に対して辛辣なのは今に始まったことではないし、諦めて投球を続ける。


そうやって華菜は桜子の納得いくまで投球を続ける。一日中練習した後だから、辛くないと言えばうそになるけれど、それは桜子も同じだろう。


桜子が由里香とのレベルの違いに心の底から悩んでいる気持ちも、由里香の投手としての才能を嫌というほど理解している華菜には痛いほどよくわかる。だから、由里香の捕手という大役を務めなければならない桜子には協力してあげたい。


とはいえ、できればもう少し優しく接してほしいところではあるが……。


「ありがとうございます、小峰さん」


練習が終わると、いつもは敵意むき出しの桜子が珍しく華菜に充実感溢れる表情を見せた。


「今度は私も小峰さんのバッティング練習をお手伝いしますね」


「いや、別にいいですよ。マシン使ってやりますし」


そう言うと桜子がまたいつもの穏やかではない表情を華菜に見せる。


「あなたに借りを作られっぱなしなのが嫌なのですよ!」


「え、えぇ……。なんでわたし怒られてるんですか……」


「怒ってないですよ! でも、ライバルとしてあなたとは真っ向勝負しないといけませんから、受けた恩は返さないと気持ち悪いだけです!」


それだけ言うと桜子は早歩きで華菜の元から去っていった。


「ライバルって何のですか……」


小さく呟いた華菜には、桜子から由里香を巡る恋のライバルだと認識されていることなんて伝わってはいなかった。


こうして華菜はライバル認定されたことなんてすっかり忘れて合宿終了まで練習終わりに桜子のキャッチング練習に付き合わされるのだった。

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