第207話 菱野姉妹②

華菜は宿泊施設の玄関の当たりで、ちょうど真希と咲希と会った。


「あ、華菜ちゃーん。ただいまー」


「遅くまでお疲れ様ね。ずっと守備練習してたの?」


「そーだよー。富瀬先生と3人でずーっとやってたのー」


咲希に声をかけられたので、華菜も労いの言葉を返した。その時に、ふと2人の手元に視線が向く。


真夏の遅くまでの練習で相当汗をかいているはずなのに、しっかりと手をつないでいることに少し違和感があった。


「あんたたち、暑くないの?」


「すごく暑いよー」


咲希がいつも通りのんびり答えている間に、真希が質問の意図と華菜の視線に気が付いたのか、慌てて振り払うようにして手を離した。


「姉妹で手を繋いだら悪いの?……」


真希が睨みながら華菜に言う。


「別に悪いなんて言ってないわよ。仲良さそうで良いと思うわ」


「手を繋いでおかないと、お姉ちゃんが寂しがっちゃうからねー」


「いや、わたしが寂しがってるというか……」


そこまで言ったら、ほんの一瞬だけ、見間違いかと思うくらい短い時間だけ、真希が笑った。少なくとも華菜が出会ってから、真希の笑顔を見たのはこれが初めてだった。


「そうね、わたしが寂しくないように咲希に手をつないでもらってるのよ……」


真希はまたいつもの表情に戻り、一度離した咲希の手を、もう一度さっきよりもさらに強くつなぎ直して部屋へと向かおうとする。


「部屋に荷物置いてから、お風呂入ってくるねー」


咲希が顔を後ろに向けて華菜の方を見ながらそれだけ言って、2人して中へと入っていった。


なんだかいろいろ気になったが、忘れないうちに菱野姉妹の分と桜子の分も含めてアイスを買いに行こうと外に出る。


星が随分と綺麗な夜の中、コンビニまで向かおうとすると、突然華菜を呼ぶ声が聞こえた。

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