第202話 合宿所へ向かおう③

華菜は回されてきたノートを確認した。表紙には大きく『小峰用』と書いてある。


「なんだろうね、これ?」


横に座っていた千早が聞いてくるが、華菜も全く見当がつかなかった。


「え、怖いねんけど! なにこれ!」


後ろで凄美恋が驚きの声をあげている。華菜も中身を見て驚いた。


「これ弱点とか、伸ばしていく場所とか書いてるけど、全部富瀬先生が書いたの?……」


ノートの半分くらいまでビッシリと文字が書いてある。見た目に反して富瀬の字は綺麗で緻密だった。


ノートには先日の皐月女子戦と美観ガールズ戦を踏まえた内容はもちろん、それだけでなく普段の練習や、中学時代のことまで見た上で書かれているような箇所もある。


自分で意識していたところもあるけど、まったく気が付かなかったような癖までびっしりと書いてあって少し怖くなった。


「なあ監督! うちの中学時代の試合なんてどこで見たん?」


一番後ろの席に座っている凄美恋が大きな声を出して富瀬に聞く。


「お前と湊の情報は一番簡単だったよ。もはや春原に頼るまでもなく、普通にネット動画で全国大会の様子があったんだからな。小峰や城河は、春原に頼んで中学校の関係者から映像借りて見させてもらった。あとのやつらは高校以降の情報だけになって悪いが、一応あたしなりに見させてもらったうえで、合宿の時に重点的に強化してもらいたい項目を書いておいたから行き道の間にしっかりと目を通しておけよ」


これを書いていたから朝集合時間に遅れたのかと少しだけ華菜は富瀬のことを見直す。


「ただの元ヤンじゃなかったのね」


華菜がポツリと呟いた。


「おい、小峰なんか言ったか?」


「いえ、なにも」


そんなことを華菜たちが喋っていると、後部座席から咲希の声が聞こえてきた。


「ねー、誰かビニール袋持ってませんかー。できれば中身が見えないやつー」


「エチケット袋は持ってきてますけど、どうしたんですか?」


「お姉ちゃん酔ったみたいー」


「ええ、それは大変ではないですか!」


桜子が持ってきていたエチケット袋を慌てて咲希に渡した。


「ちょっと、咲希。そんなこと大声で言わないでよ……あ、もう無理……」


真希が苦しそうな声で咲希に抗議した。とりあえず、細かい字は車の中で読まない方が良さそうだと思い、華菜はノートを閉じた。

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