第184話 独り相撲⑦
「凄美恋、あと1人! しっかり抑えていこ!」
華菜の声にようやく凄美恋が反応した。言葉は返されなかったし、表情もぎこちなかったけど、頷いてくれた。
とにかく次の3番打者の小田原祐実を抑えれば若狭美江に回さずに7回表の攻撃につなげられる。凄美恋もきっと思いは同じはず。
凄美恋の投げたボールは今日一番良いところへと放られた。しっかりと低めに投げて、ピッチャーの足元に転がるゴロに打ち取る。
そのまま凄美恋が捕ったボールを1塁に投げて、3アウトで7回の攻撃に入れる、そう思ったのに、凄美恋がボールの処理を慌ててしまった。
普通のピッチャーゴロなのだから、普通に取ればいいのに、慌ててしまいボールが手に付かず、一度グローブの中に入ったボールを弾きだしてしまった。急いでボールを拾い直した頃にはすでに小田原祐実が1塁を駆け抜けていた。
(マズイ、最悪だ……)
華菜が心の中で思う。最悪なのはエラーをしたことに対してではない。エラーをした精神状態のまま2アウト満塁で若狭美江を迎えなければならなくなってしまったこと。明らかに凄美恋の顔色が悪くなっている。
「凄美恋、大丈夫大丈夫! 落ち着いて行こ! もう2アウトだから!」
だけどそんな華菜の声は聞こえることなく、緊張でぎこちないフォームから凄美恋が投じた1球はお手本通りの失投、ど真ん中への半速球。そんな球を若狭美江が打ち損じてくれるはずはなかった。
しっかりと振りぬいた打球は綺麗な放物線を描き、レフトスタンドへと吸い込まれて行った。あまりにも綺麗な満塁ホームランで10-0の6回コールド負け。
桜風学園野球部の初めての夏は最終回まで戦いきることすらできずに終わってしまったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます