第177話 ミレーヌちゃんバント崩し作戦④

1アウト満塁のチャンスの中、凄美恋が傍目から見てもわかるくらい、明らかに不機嫌な表情で打席に入っていく。


「若狭! あんたほんまうちのことどんだけ馬鹿にしたら気が済むねん! 絶対に打ったるからな!」


打席上では凄美恋が美江に大きな声で文句を言っていた。多分、打席に入ってからさらに美江から何か挑発されるようなことを言われたのだろう。


たけど、これだけ荒れてしまっている時点で、美江の思惑通りである。ミレーヌのタイミングを狂わせることに特化した投球スタイルは平常心を崩してしまえば、その瞬間に負けてしまう。ミレーヌを攻略するためには、いかに冷静に美江のリードを読み取れるかが重要になるのに。


案の定、凄美恋はミレーヌの超スローカーブにタイミングを狂わされた。


タイミングを狂わせたままバットに当ててしまう。泳がされるように体制を崩しながらバットに当てた打球は、最悪なことに投手のミレーヌの元へと転がってしまう。


そのままあっさりと、捕手の美江、そして1塁手の美陽へと渡り、1-2-3いちにさんのダブルプレーで大チャンスは一瞬にして潰えてしまった。ギリギリのタイミングでアウトになった凄美恋が項垂れ、しばらく一塁ベースの付近から動けなくなっていた。


「凄美恋、戻ろ」


そのまま放っておいたらずっとその場で項垂れていそうだったので、華菜が1塁に走り寄ってから、凄美恋の手を引っ張って立ち上がらせた。


「ごめん、華菜。やってもうた」


「アウトになって謝ってたら1試合で何人が謝罪しないといけないのよ。ほら、さっさと立って」


華菜が引っ張り上げるようにして、凄美恋を起こす。すでに負けた後みたいになっているけど、これから凄美恋はマウンドに上がらないといけないのである。


6回表が終わって3点ビハインド、これ以上は絶対に点をやれない場面ですでにダブルプレーに落ち込んでいる凄美恋が果たして平常心で投げられるのだろうか。


不安な気持ちが湧き出てしまい、華菜は必死に頭を振る。大丈夫、凄美恋はきっと抑えてくれる。そう信じるしかない。

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