第143話 息ピッタリのバッテリー⑥
「あと、際どい球は積極的に振っていくようにした方が良いと思います。今日はいつもに比べてかなりストライクゾーンは広いと思っておいた方が良いです。あのバッテリーの技術はかなり厄介です」
打席に立っていた時、1球目の超スローカーブはボールだと思って見逃したが、判定はストライクだった。
スローボールは本来ならストライクゾーンに入りにくい。ふんわりと山なりに投げる分だけどうしてもコントロールはつけ辛くなる。
だが、ミレーヌの場合は意図的に投げるスローボールとは違い、全力で投げた結果としてスローボールになる。そのおかげで自然な高さにスローボールを投じることができるのだ。
それに加えて捕手の美江のフレーミング技術である。高校生とは思えないくらい際どいボール球をストライクに見せる技術が高い。
そして極めつけはミレーヌの醸し出す天性の愛くるしさ、か弱い小動物感により、ついつい無意識のうちに庇護欲が湧いてきてしまう。
審判はあくまでも心の通った人間である。投手に対して無意識のうちに思わず情が湧くこともあるだろう。おそらく今日はストライクともボールともどっちとも取れるような球はストライク判定にされると思っておいた方が良い。
華菜が話している間に、あっさり三振をした凄美恋が不満げな顔をして戻ってくる。
「最後の球絶対ボールやと思ったのに……。うちの肩くらいの高さに見えたもん」
「なるほどな……。確かに小峰の言う通りかもしれねえ。とにかく早いところ攻略法を見つけねえといけねえな」
凄美恋のぼやきと華菜の所感を聞いた富瀬が神妙そうに頷いた。
「とりあえず次の回の攻撃から際どそうな球でも初球からどんどん打ってけ。あんだけコントロール良けりゃ待ってても意味ねえし、当てりゃなんか起きるだろ」
「適当な指示ですわね……」
富瀬の指示に怜が呆れる。
「ま、なんでもいいわ。とにかく私が0点に抑えたら問題ないのよ」
そう言って先にマウンドへと走っていった由里香の背中は素晴らしく頼もしかった。
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