第144話 由里香の背中①

1回裏の守備についた華菜の位置からは、ちょうど由里香の頼もしい背中を見ることができる。


サウスポーである由里香は顔が1塁方向に向くため、必然的に3塁にいる華菜には背中を向けることになる。


小学生の頃チーム事情でなんとなく守ることになってそのまま続けているサードだけど、こうやって由里香のカッコいいエースナンバーを見れるようになって良かったと華菜は思った。


1回裏の皐月女子の攻撃は1番の木田優子から。由里香はストレート3球で1ボール2ストライクにして、さっさと追い込んでしまう。木田優子が4球目を打ち上げた打球はなんの問題もないセンターフライのコースへと飛ぶ。


とりあえず1アウト、と安心しようとしたのだが、千早が目測を誤ってしまう。試合前に千早が球場の広さに驚いていたことへの華菜の不安がさっそく的中してしまう形になった。


幸い後ろの方を守りすぎていたことによって生じたミスであるため単打シングルヒットで済んだが、記録上は先頭打者をヒットで出した形になってしまった。


続く2番の吉川光の当たりは普通のセカンド正面のゴロ、上手くいけばゲッツ―を取れる。そう思ったのだが、今度はセカンドを守っていた真希が打球を弾いてしまう。


真希のエラーになり、無死ノーアウト1、2塁。怯えたような目で謝る真希に、由里香が笑顔で「大丈夫、大丈夫」と宥めてあげていた。


次打者の3番小田原祐実が犠打バントを決めて1死2,3塁の形を作った。わざわざ3番打者に送らせたということは、それだけ次の打者に対する期待が高いということ。


悠然とバッターボックスに立つのは、打者としても県内トップレベルの実力を誇る皐月女子の4番若狭美江。一番迎えたくない形で初回に美江の打席を迎えてしまった。

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