第2部 桜風学園野球部始動!
第1章 夏の大会に向けて
第119話 9人揃って①
「お疲れ様です……」
ようやく9人部員が集まった次の日の放課後、
「なんだか華菜ちゃん眠たそうだけど大丈夫?」
目を擦っている華菜に千早が心配そうに声をかける。
「なんかついに由里香さんと一緒に野球ができるのかと思うと全然眠れなくて……」
「まったく、いちいちそんなことで寝不足にならないでよね。そんなことで寝不足になってたら全国大会にでも出た日には一睡もできなくなっちゃうんじゃないの?」
先に練習着に着替えていた由里香が呆れている。
「だってまた由里香さんのマウンドでのカッコいい姿が見られるんですからどうしてもワクワクしちゃいますよ! でも、由里香さんの目が覚めるようなストレート見せてもらったらバッチリ元気になると思います!」
華菜が一転して元気に返事をしていると、出入り口付近にいた桜子が由里香に早く来るように促した。
「そんな子放っておいて早く練習に行きませんか? 予選大会までもう3週間程しかないのですよ。ただでさえ私たち皆さんよりも出遅れているのですから」
「そうね。じゃあ私たち先に練習行くわね」
そう言うと、由里香と桜子はさっさとグラウンドへと出て行ってしまった。
「ねえ、千早。生徒会長……じゃなかった、桜子先輩私にだけ冷たくない?」
これから一緒にプレイをしていく先輩のことを生徒会長と呼ぶのも変なので、名前で呼ぶことにしたのだが、まだなかなか慣れず、華菜は言い直した。
「うーん、どうだろうね。まだ千早も桜子先輩のことはよくわからないけど、気のせいじゃないかな?」
「まあ、気のせいよね」
どこかひっかかりつつも、華菜もグラウンドへと向かった。
「華菜ちゃん、ついに湊さんの投球が見れるんだね!」
「はい!」
グラウンドに出た華菜は美乃梨ともに、由里香の1年半ぶりの投球をわくわくしながら見つめていた。いつの間にか素振りの手も止まってしまっている。
相変わらずブルペンなんて大層なものはないので、グラウンドの端で投球練習をするしかないのだが、由里香の周りにだけマウンドが見えるようだった。その周囲だけオーラが違うというか、とにかく言葉では言い表せないものがある。
ゆったりと自分の世界に浸るように投球モーションに入っていく。腕を大きく振りかぶり、右足をしっかりとあげる。白鳥のように優雅な投球フォームで、ゆったりと大きく左腕を振り降ろす。
芸術作品のように美しい投球フォームは華菜が対戦して衝撃を受けた当時の由里香と何も変わらなかった。
「ああ、すごい! 由里香さんが投げてる!!」
華菜が恍惚とした表情で由里香の投球フォームを見つめた。
「うん、すごいね。湊さんの投球をこんなにも近くで、同じチームメイトとして見られるなんて思わなかったよ」
由里香が投げるたびに、華菜は黄色い声をあげていた。
「ああ、やっぱり由里香さんはカッコいいなぁ」
「華菜ちゃん、ファンみたいになってるよ……」
さすがに美乃梨に呆れられてしまったが、華菜にとって由里香の投球をまた見られるということはそのくらい素晴らしいことなのである。
おそらく人生で大事なことランキング上位に来るであろう高校受験というイベントを、由里香の為に捧げられるくらいには、彼女の投球には価値があるのだから。
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