第101話 湊姉妹①

「私の姉、湊唯のことは知ってる?」


「そりゃもう、もちろん! すっごく知ってます! 当たり前じゃないですか! 私、大ファンで家にサインもレプリカユニフォームも持ってますよ! 私、あのスパローズの12年ぶりの優勝が決まった前日の試合で湊さんを生で見れたんです! 最終回1点リードの2アウト満塁でマウンドに上がった湊さんのプロ初セーブの試合です! 抑え投手が最終回にまだ同点に追いつかれてもいないのにマウンドを降りるっていう異例な状況での登板で、プレッシャーのかかる中で相手チームの4番バッターを抑えるなんて!! あ~、ほんと、かっこよかったなぁ……」


華菜が興奮した口調で、うっとりと目を輝かせて話すのを見て、由里香が苦笑した。


「じゃあ、私が野球選手としての湊唯のことが大嫌いなことは知ってる?」


「へ?」


由里香が嫌味っぽく言ったのを聞いて、華菜の心から空気が抜けていったような気がした。また何か触れてはいけないものに触れてしまったのではないかと背中がひんやりとしてくる。


せっかく打ち解けたのにまた怒らせてしまうのではないかと思うと、冷や汗が止まらなくなる。固まった笑顔のままで由里香の表情を慎重に伺うと、由里香は怒っているというよりも、困っているような表情をしていた。


「あんたがもっと淡白な感じで話してたら少しムッとしてたかもしれないけど、そこまで愛情込めて語られたら私も困るわよ。お姉ちゃんとしての湊唯のことは好きだから複雑な気分になるわ」


「あの、湊さん……唯さんのこと嫌いってどういうことですか?」


よく考えたら由里香も唯も両方”湊さん”じゃないかと思い直して、湊唯選手のことを下の名前で言い直した。


「あなたが私と唯が姉妹だっていつ知ったの?」


「え? 多分由里香さんと対戦した次の秋くらいだったと思いますよ」


「そうよね……」


由里香が左手で頭を押さえ俯いた。


「あの、それが何か?……」


『由里香さんのお姉さんって湊唯投手だったんですね! だからあんなにも凄い球を投げられるんですね!✨』


由里香の頭の中には、あの日華菜から送られてきたメッセージがフラッシュバックしていた。その文面に悪意がないことなんて、普通に考えればわかることなのに……

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