第99話 想い②
「ていうかそもそも、どうして由里香さんが謝ってるんですか? 私由里香さんにされて嫌だったことって中2の秋に既読スルーされたことくらいしか――」
「そうよ、まさにその話を謝ってるんじゃない」
由里香がきっぱりと言い放った。
「そんなこと別に、私がここに由里香さんのことを呼び出したってことは、もう根に持ってないってことなんですから、気にしなくてもいいのに。だいたい、私はそんなことでショック受けるようなやわな子じゃないですし」
「ほんとに? 本当に心の底からそう言えるの?」
由里香が華菜のことをじっと見つめる。
「それはもちろん言えま……」
華菜が由里香の目から視線を外した。
中学2年生の秋、大好きだった由里香から突然返ってこなくなったメッセージを思い出す。
当時感じた、寂しくて、何をしてしまったのか訳が分からなくなって、何もかも手につかなくなってしまったあの頃の気持ちを、本当に何もなかったこととして片づけられるのだろうか。
華菜の気持ちがぐるぐると渦巻いていく。
「言えません……」
華菜が声を絞り出した。そしてもう一度、今度は大きな声ではっきりと由里香に伝える。
「言えるわけないじゃないですか!」
「そうよね」
由里香が一瞬目を瞑って頷いた後、ゆっくりと、目を潤ませている華菜のことを見つめ返した。
「私すっごく寂しかったんですから! せっかく由里香さんみたいな凄い人と出会えたのに。憧れたのに。もっといろいろ教えて欲しかったし、次会った時は絶対に打ちたいって思えたし、この人と同じレベルに立ちたいって思えた初めての人なのに!」
気付けば華菜の目から涙が溢れていた。ずっとため込んでいた思いがとめどなくあふれ出して、もう止まりそうになかった。
「それなのに、なんで私ともう連絡とってくれなくなったんですか? なんで野球やめちゃったんですか? なんで私のこと知らないふりしたんですか? なんで……」
感情的になっていて気が付かなかったが、いつの間にか、華菜はふんわりとしたいい匂いとともに、温かいものに包み込まれていた。
「ごめんね……」
知らない間に由里香が華菜の元へと歩み寄って来ていたようだ。由里香が静かに華菜のことを抱き寄せる。
「多分私はすごく自分勝手だったと思う。華菜のこと傷付けてしまったのも間違いないと思う。それなのにこんな私のことを追いかけてきてくれて本当にありがとう……」
「ずるいですよ……」
ずっと追いかけてきた憧れの人に、謝られて、感謝されて、抱きしめられて。そんなのもう、許すとか、許さないとか、気にしてるとか、気にしてないとか、もうどうでもよくなってしまうではないか。
華菜は遠慮することなく由里香の胸元で泣き続けていた。そんな華菜の頭を由里香が優しく撫でる。
由里香の制服が少しずつ華菜の涙で湿っていく。でも涙をこらえるつもりなんて無かった。いっそ由里香が制服を着られなくなってしまうくらいまで、自分の溜まった感情のこもった涙を流し続けてやる。
華菜はそう思って、我慢せず、満足するまで、思う存分わんわん泣いた。
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