幕間2 それはまるで恋に落ちたかのような①
中学2年生で由里香に出会うまでの華菜は、今よりもずっと野球の実力に自信があった。
全国大会出場をかけた地区大会の準決勝で、強豪校に進学の決まっていた最速135km/hの男子投手を相手に4安打したりもして、自分の野球の才能はかなり凄いのではないかと、そう思っていた時期だった。
そんな中迎えた決勝で目の前に立ちふさがったのが、華菜と同じく男子に混ざって野球をしていた、天才投手湊由里香だった。
由里香と出会って初めて感じた、どうやって打てば良いのかわからないという感覚。この人には敵わないという感覚。そして、自分の実力がまだまだであるという感覚。
本当なら、悔しがったり、嫉妬したり、そういう負の感情を抱くべきだったのだろうけど、完敗した華菜の心には、ただただ素敵な投手に出会えたことに対する爽やかな感情だけが残っていた。
ノーヒットノーランを達成されて完敗して、試合終了後のチームの雰囲気は、ガッカリしていたり、悔しがっていたり、とにかく暗い雰囲気だったにも関わらず、華菜だけは場違いにもワクワクが止まらなかった。
こんなカッコいい投手に出会える機会は早々ない。
試合後、みんなが意気消沈して帰る中、華菜は一目散に由里香の元へと向かった。
「あの、すいません、私、小峰華菜といいまして……」
「今さっき試合したばっかりなんだから知ってるわよ」
由里香の顔は困惑した苦笑混じりの表情だったけど、とてもかっこよかった。滴る汗が良いアクセントになっている。目の前の由里香が男の人だったら、自分は絶対に恋に落ちていただろうと華菜は思った。
もっとも、試合で受けた雷に打たれたみたいな衝撃は、ほとんど恋のようなものだったけど。
「ええっと、すいません、あの、えっと、湊さんのピッチング凄くかっこよくて、できればライソの交換してほしいなって思っちゃいまして……」
華菜は思わず無料SNSアプリの連絡先交換を申し出てしまった。
こんなこと会ったばかりなのに突然言って、変な人だと思われて気持ち悪がられたらどうしようかと怖かったが、中学3年生の由里香はこの大会で引退してしまうので、次にいつ会えるのかわからないのだ。ここで連絡先を聞いておかないと、絶対に後悔してしまう。
けど、よりによって緊張してかなりしどろもどろになってしまったし、声は裏返っちゃったし、想定よりもさらに変な人になってしまったのではないだろうかと華菜はおどおどしながら由里香の返事を待った。まともに目も見られなかった。
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