第46話 同じ顔の新入部員①
「あの、怜先輩、その子たち誰ですか……?」
「4人目と5人目ですわ」
怜との勝負に勝った次の日の放課後、華菜と千早がいつものように野球部部室(仮)に行くと、すでに怜が待っていた。正体不明のまったく同じ見た目をした2人の人物と共に。
謎の2人の人物は小柄な千早よりもさらに背が低かったので、背の高い怜と一緒にいると先生と生徒のようにも見えた。
「あれ? 菱野さんだよね?」
千早が声を掛けると2人とも鏡に映したみたいに同時に千早のほうを向いた。ドッグ仮面のお面がなくとも話せている辺り、すでに千早の知っている人のようだ。
「千早の知り合い?」
「うん。同じクラスの菱野咲希さん」
「どっちが?」
「えーっと……」
華菜の質問の答えに千早が悩んでいた。どちらが同じクラスの子か聞かれてわからないなんて失礼な話ではあるのだが、それも仕方がないと思えてしまう。本当に同じ見た目なのだから。顔も髪型も制服の着こなしもすべて同じなのである。
「私が菱野咲希だよー」
答えたほうの人物が笑顔で手を振った。おっとりした口調で、感じが良い子のようだ。
「ごめんね、菱野さん。どっちか当てられなくて……」
千早が申し訳なさそうに咲希に言う。
「仕方ないよー。私たち見た目一緒だもん」
「菱野さんって双子だったの?」
「そーだよー。私たち双子なんだー。千早ちゃんとドッグ仮面みたいに同じようで違う存在なんだよー」
「そうだったんだね!」
千早とドッグ仮面の関係と同じなら、それは双子ではなく同一人物なのでは? と華菜は思ったが、なぜかそのまま進んで行く会話を遮るわけにもいかず、ツッコミ不在の会話を放置しておくことにした。
「私が妹の菱野咲希でこっちが姉の菱野真希っていうんだー。お姉ちゃんの方が先に生まれたのに私がさきなんだー。ややこしいけど覚えてねー。よろしくー」
咲希が指差した方には咲希と同じ顔の子がいた。真希の方は何も言わず、華菜たちを見ている。2人の顔を良く見比べてみると、違う部分もあり、真希の方が表情に乏しい様に見えた。
「まあ、そーいうわけだから今日からよろしくねー、犬原さんと小峰さん」
「え、咲希ほんとに野球部に入るの?……」
横から真希が咲希に向けて小声で確認する。
「入るよー」
「私はまだ入るって決めたわけじゃ……」
「どのみち春原先輩に脅されてるんだし、入るしかないんじゃないかなー?」
「それは……」
双子姉妹の間で怪しげなやり取りが広げられている。なんだか少し不安になり、華菜は怜に尋ねた。
「春原先輩、この2人に何かしたんですか……?」
「わたくしは別に何も、ねえ咲希さん?」
「そーですよー。私たち春原先輩に何かよからぬこと見られたとかじゃないですからねー」
「その言い方じゃ春原先輩に秘密を握られてるのがバレてるみたいなもんじゃない!」
怜に話を振られた咲希が和やかに返す。その横で真希が小声で咲希に話しかけていた。その会話のせいで、華菜にも菱野姉妹が何かよからぬことをしていたのを怜に見られて、半ば強引に入部させられたという流れがしっかりと伝わった。
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