第28話 美乃梨の激励②

「でもなんで私が落ち込んでるってわかったんですか?」


まるで生徒会長と交渉する前から失敗したことを分かっていたかのような言い方が気になった。


「相手が生徒会長の城河さんなんだから、部員たった2人で部活動の申請したら相当怒られてきてるんじゃないかと思って。あの人怖かったでしょ?」


やはり生徒会長は怖い人というイメージの方が多数派のようだ。華菜の中で生徒会長へのイメージは今日ですっかり一変した。


「はい。けど生徒会長が怖かったというよりもどっちかというと由里香さんが野球を止めたのが私のせいだって言われたことがこたえて……」


「由里香さん?」


華菜の由里香への呼び方が変わっていたので、美乃梨が反応した。


「もう呼び捨てにするのは申し訳ないかなと思って」


「一体城河さんに何を言われたの?」


「由里香さんが野球を止めたのが私のせいだとだけ言われまして……詳細は教えてもらえませんでした……」


「とりあえず華菜ちゃんが何かしたってこと?」


「そうみたいです。でも覚えはないんです……」


「覚えがない?」


「マウンドにいた由里香さんは私の憧れの人だったんで野球をやめることに繋がるような酷いことを言った覚えがなくて……」


そこまで言うと美乃梨が渋い顔をした。


「城河さんの言ってたことってほんとなのかな?」


「どういうことですか?」


「城河さんが華菜ちゃんに湊さんの野球部勧誘を諦めさせるために嘘ついてる可能性とかは?」


「由里香さんが野球部に入ったら生徒会長に何か不利になるようなことでもあるんですかね?」


「湊さんが成績優秀で良い大学に行けそうだから部活動をさせずにずっと勉強させておきたいとか?」


「由里香さんって成績良いんですか?」


「それは知らないけど、例えばそういう可能性もあるのかもしれないな、と思って」


華菜は少し考え込んだ。


「生徒会長って由里香さんと仲良かったりしますか?」


美乃梨に聞いて答えが返ってくるのか分からなかったが、2年生の交友関係を知っていそうな知り合いは2年生の美乃梨しかいなかったので、思い切って尋ねてみた。


先ほど生徒会長が由里香のことを話していた時は明らかに知人以上の親しみが込められているように感じた。


「仲いいのかな? 2人で話してるとことか見た事ないけど」


「学校で全然話してないんですか?」


「湊さんいっつも取り巻きの子とばっかりいるし」


どうやら予想は外れたみたいだ。


「そうなんですね」

と何となく返事を返して、華菜はまた窓の外をぼんやりと眺めた。美乃梨に相談してみても何が何だか訳が分からなくなる一方だった。


「私、もう由里香さんを野球部に入れるの諦めた方がいいですかね?……」


華菜がぽつりと切り出した。


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