第20話 屋上の幽霊騒動③

千早は先に部室に戻って息を整えていた。


「いきなり走って戻っちゃってどうしたのよ?」


「やっぱり屋上に幽霊いたから……」


「え?紅茶飲んでた人以外にも誰かいたの?」


華菜は先ほど見た紅茶を飲んでいた人物以外にも屋上に人がいたのかと思い不安になる。


「その紅茶飲んでた人が幽霊なんだよ、きっと」


「いや、違うでしょ……思いっきり足あったし、明らかにうちの学校の人だったじゃん」


「でもここの旧第2校舎って立ち入り禁止なんでしょ? なのに人がいるなんておかしいよ! きっと幽霊だよ!」


「その理屈だとほぼ毎日旧第2校舎を出入りしてる私たちも幽霊になっちゃうけど……」


「えっと……じゃああれだよ! あんな屋上にテラス席があるなんておかしいよ!」


「そういわれてみると、たしかに……でもテラス席があることと幽霊がいることとは何も関係ないと思うけど……」


「えーっと、それじゃあ……」


千早がなんとか屋上に幽霊がいたという理由になりそうなことをひねり出そうとしている。どうしてそこまでして屋上に幽霊がいたことにしたがるのかはわからなかった。


しばらく宙を見つめて思案していた千早が突然大きな声を出した。


「……ごめん、華菜ちゃん千早ほんとはすごい人見知りなの! ほんとにごめんね!」


唐突に、まるでずっと隠していた罪を告白するかのように勢いよく言われたが、人見知りであることに罪悪感を持つ必要はない。どうして千早がこんなにも真剣に謝っているのかわからず華菜は困惑した。


「別に謝ることじゃないでしょ……」


「華菜ちゃんあれだけ屋上にいくの楽しそうにしてたのに水を差しちゃったから……」


「何今更気遣ってんのよ。はじめに言っといてくれたら私だけで行くとか、いろいろ考えたのに。そもそも別に楽しみにしてたわけでもないし……」


屋上探検を楽しみしていたと思われると、なんだか幼い子どもみたいで恥ずかしくなってくる。


「でもせっかく華菜ちゃんと仲良くなれたのに、そのせいで嫌われたら……」


「いや、そんなんで嫌うわけないでしょ……どんだけ私の心狭いと思われてんのよ……」


「嫌いにならない……?」


怒られてる子供みたいに上目遣いで恐る恐る聞かれるが、どうしてここまで千早が不安そうに聞いてくるのかわからなかった。


「そんなんで嫌いにならないって。だいたいあんたがいなくなったら私1人で勧誘活動しないといけないじゃない。そんなの絶対嫌だからね」


そこまで言うとようやく千早の顔に笑顔が戻った。どうしてそんなにも気にするのかわからなかったが、少なくとも千早にとっては重大な問題なのだろう。


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