第19話 屋上の幽霊騒動②

旧第2校舎は2階建てで、さらにその上に屋上階がある。


上階へと昇る階段は、入り口がある場所とは真逆の方角にあるため、廊下の端から端へと歩かなくてはならないが、廊下の全長は50mもないくらいなのですぐにたどり着く。階段は屋上まで続いているので、そのまま昇り続けると目的地の屋上にたどり着く構造になっていた。


「ねえ、ほんとに行くの?」


千早は怯えながら華菜の後ろに身を隠し、制服のブレザーの裾を掴んでいる。


「行くよ」


華菜が屋上に出られる扉の目の前に立ち、力強く言う。いったい扉の向こうに何がいるのか期待半分怖さ半分で扉に手をかける。


「あ、でもあれじゃないかな?今のご時世屋上に出るなんて危ないし、鍵かかってるんじゃないかな?」


「そうかもしれない」


「そうだよ、きっと。入り口近くの野球部(仮)の部室以外全部鍵かかっているような校舎だもん。きっと屋上に行くのにも鍵が――」


千早が全力で引き留めようとしているのを気にせず、華菜は屋上に出る為の扉を開けた。春先のほんのり温かくて甘い、心地良い風が2人を包み込んだ。


「鍵はかかってないみたいね」


屋上はテニスコートくらいの広さしかなかったので、一目ですべてを見渡せる。だからすぐに、屋上で制服を着て、カフェパラソルのあるテラス席のような場所で紅茶を飲んでいる女子生徒がいるのがわかった。


桜の花が舞う中で優雅に紅茶を飲んでいる姿は絵になっていて、まさにお嬢様という印象を受ける。もちろんそこにいるのは普通の生きている人間で、足がしっかり存在していることも確認できた。


やはり幽霊がいるというのは美乃梨の冗談だったようだ。さっそく華菜が声をかけようと一歩歩み出したときに、すぐ後ろで人が走り去る音が聞こえた。


「え? 千早、どうしたの?」


後ろを振り向いた時にはすでに千早は屋上からはいなくなっていた。屋上から逃げ出してしまったようだ。


華菜の驚きの声に反応して、優雅に紅茶を飲んでいる女性もこちらを見た。一人残された華菜に向かってゆっくりと微笑む。


この女性が何者なのか気にはなるが、かといって走り去った千早のことを放っておくこともできず一旦会釈だけしてその場を去ることにした。

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