第18話 屋上の幽霊騒動①

「それにしても美乃梨先輩はなかなかいい場所教えてくれたね」


先日美乃梨に教えてもらった旧第2校舎は思いのほか便利で、現在部員2人の野球部(仮)の部室兼“野球部設立大作戦”の作戦会議室に使っている。ちなみにこの“野球部設立大作戦”という作戦名を考えたのはもちろん千早である。


初めてこの場所に連れて来られた日、美乃梨は野球部を作ればどうかという助言をした直後に突き放すように帰っていった。今後は距離を置かれるのだろうかと心配していたが杞憂だったようで、次の日の昼休みには何事もなかったかのように野球部部室(仮)に顔を出していた。


それ以降も顔を出したり出さなかったりを続けていたが、顔を出してくれた日には何らかの情報を提供してくれた。


とりあえず華菜たちが美乃梨に聞いたこととしては、

①一応学校の方針的にはこの旧第2校舎は来年取り壊すため使用禁止であるということ

②この野球部部室(仮)以外は校舎内にある部屋全部に鍵がかかっていて使えないということ。


そして3つ目は……


「旧第2校舎はたしかに便利だけど、美乃梨先輩にこの間聞いた変な噂があるのがちょっと怖いな……」


「旧第2校舎の屋上に幽霊が出るっていう話?」


「うん」


美乃梨から聞いたのはこの旧第2校舎の屋上に幽霊がでるという噂だった。美乃梨曰く、屋上には“優雅なお嬢様の霊”がいつもいて、のんびり紅茶を飲んでいるらしい。


美乃梨はのんきに「本当にいるか気になったらぜひ屋上に行ったらいいと思うよ。なんなら3人目の部員になってもらったらいいんじゃない?」と笑っていたが、それを聞いて千早は濡れた子犬みたいに震えていた。


「いっそのこと見に行ってみる?」


「え?」


千早が一歩後ろに下がっておそるおそる華菜に尋ねる。


「見に行くって幽霊を……?」


「いや、まあ多分幽霊はいないと思うけどさ、私たちまだ美乃梨先輩から聞いた情報でしかこの旧第2校舎のこと知らないから、実際に自分たちの目で確認した方が良いんじゃないかなと思って。何か面白いものがあるかもしれないし」


それに旧第2校舎の幽霊の噂を美乃梨から聞いた後に「是非言って会ってみてほしいんだよね。屋上の霊と」とひっそりと耳打ちされたのである。まるで美乃梨はその幽霊の正体を知っているかのような言い方だったので、華菜も気になっていたのだ。


美乃梨はふざけたところもあるけどなんだかんだで適切な助言をしてくれるから、今度もまた次に進むためのヒントをくれているのかもしれない。


「うーん……もし本当に幽霊がいたらどうするの?」


「その時は逃げたらいいんじゃない?千早の足の速さなら相手が幽霊でも簡単に撒けるでしょ」


「千早は大丈夫だけど……華菜ちゃんは逃げ切れるの?」


「私だって別に足遅いわけじゃないし、大丈夫だって」


「じゃあ、ほんとに幽霊がいたら逃げようね……」


千早が不安そうな表情をしながらも渋々屋上探検に同意した。

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