第12話 メガネの協力者と旧第2校舎④

先ほどから部屋の中に何があるのか確認している千早をよそに、華菜と美乃梨は話を進めていく。美乃梨の発言によって2人の間の空気が引き締まっていた。


「木川先輩は湊由里香とどういう関係なんですか?」


「さっきも言った通りただのファンだよ。本当にそれ以上でもそれ以下でもない。今はただのクラスメイトだし」


「湊由里香にはそのこと話したんですか?」


「そのことって、投手としての湊さんのファンってこと?」


華菜は頷いた。


「まさか。小峰さんもこの間湊さんに会ってわかったでしょ。今の湊さんはもうボクたちが知ってる倉敷ベアーズ時代の湊さんじゃないんだよ。野球のも身に纏ってないから、クラス内で彼女が有望な投手だったこと知ってるのはボクくらいだと思う。彼女に何があったのかはわからないけど……」


「そうですか……」


できるだけ冷静に返事はしてみたものの、華菜はどうしたらいいのかわからなかった。ずっと追い求めていた人が自分の存在を覚えていないどころか、野球をしていた頃のことに触れてはいけないような状態にあるみたいだ。


「ボクは湊さんについて知っていることを話したから、今度は小峰さんが、なんで湊さんのことをそんなに必死に追いかけてるのか教えてくれるかな?」


「それは……」


「湊さんに地区予選決勝で負けたのと関係あるの?」


由里香と華菜以外誰も知らないと思っていた話題が目の前にいる美乃梨から出てきて動揺する。


「えっと……関係ないと言えば嘘になります。あんなにもコテンパンにやられたこと今までなかったから……」


「あの試合なかなか衝撃的だったもんね。ボクも準決勝までどんな球が来てもヒットにしてた小峰さんが、4回打席に立って3三振するなんて思わなかったもん。チームも結局ノーヒットノーランされちゃったし」


「はい、私もうあの日から湊由里香の事で頭がいっぱいになって、あの人に再戦することだけを考えて生きてきたのに、中3の初めごろに突然湊由里香が野球部の無いうちの学校に入学したって聞いて……あれ?ちょっと待ってください」


過去の話にすっかり浸っていた華菜はふと我に返る。


「なんで木川先輩私が地区大会の決勝で湊由里香に負けたこと知ってるんですか? なんなら私の打席の詳細まで覚えてるって……」

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