第9話 メガネの協力者と旧第2校舎①

「ねえ、ほんとにやるの?」


華菜はなは千早の耳元で尋ねた。


2年の教室の階にいる人たちの視線がすべて自分に向いているかのようで、華菜はすでに恥ずかしい。昨日は千早の勢いに押し切られて”湊先輩こっち向け作戦”なるものに同意をしてしまったが、やっぱり一晩経って行くのが憂鬱になって来た。


「やっぱり明日にしない?」


「ダメだよ。今日できることは今日しないと」


先に歩いていく千早の後ろに身を隠すようにしながら歩いていく。千早の方が背が低いので少し歩きにくい。


いよいよ2年3組の教室が見え、胃痛もピークに達しようとしていた時に、後ろから見知らぬ声に名前を呼ばれた。


「ねえ、キミ小峰華菜さんだよね?」


「え、そうですけど」


突然の声に驚く。


振り返って顔を確認したけどやはり見覚えのない、メガネの上級生が立っていた。あまりオシャレには興味がないのか、制服の着こなしも地味で、くせ毛の髪型が特徴的な、化粧っ気が全くなさそうな人だった。


先日2年3組に入った時にイタい人扱いされて悪目立ちしたせいでもう2年生全員フルネームまで知っている状態なのだろうかと心配になる。


その間にも立ち止まっている華菜を無視して千早は先に進もうとしていたので、慌てて腕を引っ張って足止めさせる。千早が「ひゃっ」と驚いた声を出していたが、今は千早よりも突然声をかけてきたメガネ先輩を気にしないといけない。


「あの、どうして私の名前を……? もしかして2年3組の人たちみんな私の名前知ってたりします?」


「まさか、いくらきみでもそこまで有名じゃないよ」


「よかった」


華菜がホッと息を吐いたらメガネ先輩は不思議そうに首を傾げた。


「それで、私に何かようですか?」


「立ち話もなんだしちょっと場所を変えようか? 2年生の教室のフロアにはあんまりキミも長居したくないだろうし」


メガネ先輩はフフっと笑う。華菜は2年3組の教室で起きた一連のことを思い出して壁に頭をぶつけたい気分になる。


「その方が助かります……」


とりあえずメガネ先輩の言うことに従っておいた方が間違いはなさそうだ。華菜は千早の手を引っ張り、校舎の外に出ようとするメガネ先輩の後を追った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る