Emotions
橘コウ
第1話 贅沢で退屈な日々...
季節は秋。浅倉優莉という女性がいた。
第二子、妊娠9カ月。来月出産。帝王切開。計画出産。
一人目は女の子。妊娠中の赤ちゃんは男の子。夫は一流企業に勤めるサラリーマン。
二度目の帝王切開出産だが年数が開いてるので少々の不安はあった。
「一姫二太郎」と古風な優莉の母親がよく言っていた。
育てられてきた分、母親の言葉が大きく残る優莉にとってはうまく生めたと思っていた。
実際には五体満足で生まれてくれば性別なんてどうでも良いことである。
優莉はこんな古臭い事を言う人が未だにいるのかとさえ思う事もある。
小言とも取れるような母親との会話は時々嫌気がさす時もあるが大人になり親になってみると昔の人が言っていた事が理解できるようになる。
理にかなっている事もある。
それをわかっているから昔のように反抗せず最後まで母親の話を聞くようになった。
今その両親の家の隣に住んでいる。
設計中の新しい家が建つまで優莉の実家の隣の家に住ませてもらっており、口には出さないが妻の両親が常に隣にいる環境からは早めに離れたいと思う夫であるように見える。
そんな来月出産を控える中、娘の幼稚園の最後の運動会に臨月の大きなお腹で出席した。
やはり臨月ともあって身体は重く辛い状況だったが、娘の幼稚園最後の運動会なので無理しても出席しなくてならなかった。
誰も心配もせず、当たり前のように大変な事もしなくてはいけない事もあった。
不満が募る。
とても幸せな暮らをしているはずなのにどうして不満ばかりたまるのだろう。
主婦は働いていないから、無理をして何をしても当たり前。
冗談じゃない。
主婦だって賃金に換算すれば、良い給料だってテレビで言ってた。
どんなに大変でも認められない。
悔しい。
良い暮らしの中で優莉だけは不満が募っていったが、ずっと隠していた。
幼稚園で久しぶり会った、OBのママ友が優莉のお腹を見て、好奇の眼差しで「お腹大きいね~メートル越えちゃうんじゃない?」と言ってきた。
中肉中背の優莉のお腹がメートルを超える訳ないのは、出産を経験していれば誰もがわかる事だ。
若い優莉を良く思っていなかったのだろう。
そのママ友も主婦でニヤニヤした笑顔が人を小バカにして楽しんでいるように見えた。
更に主婦が嫌になる。
その隣の働くママ友がフォローを入れてくれた。
世間を知る人は人を小バカにして楽しんだりしない。
優莉はやはりその働くママ友のような人でありたいと思った。
専業主婦と働く母親、いつしか線引きして差別していた。
ママ友と接してる中で私ももっと世間を知って、世の中に出たいと思わせる出来事だ多々あったのだった。
優莉は第一子として、両親、父方母方の祖父母にも溺愛され何不自由なく大事に育てられてきた。
小さな頃から自由奔放な性格だったためか、古風でお堅い母親が、普通の子供以上により一層煙たく感じたのだろう。
世間体、普通を押し付けられ、優秀な子に育てるため、抑えつけられて育てれらた感じがどうしてもする。
思春期には母親に反抗した。
私立高校を中退しキャバクラで働くようになった。
夫とは高校生の頃に出会って付き合っていた。
何度か別れていたが、20歳の時に妊娠が発覚し結婚する事になった。
いわゆる、できちゃった結婚で周囲の人からはこの若い二人はすぐに離婚すると思われていただろう。
だが、一流企業のサラリーマンとなっていた夫とのできちゃった結婚は誰も反対する人がいなかった。
その時、優莉はキャバクラも辞め、無職だったため、両親はきっと無職の娘をもらってくれる人がいてくれて良かったと安心しただろう。
キャバクラではナンバーワンで週に6日勤務していたため、忙しい日々を過ごしていた。
結婚生活は子育ては大変だが、非常に穏やかで刺激のない日々に感じていた。
ありふれた平凡な結婚生活。
時々行くネイルサロン、ママ友とのランチ...
主婦には飽きていた。
自分の価値はなんなのか…考えるようになっていった。
長女が生まれてから六年経ち二人目を妊娠した。
不妊治療はしていない。
夫婦生活がなかっただけだ。
不妊治療をしていると思っていた知人もいる事だろう。
遠まわしに両親に二人目を催促される時もあったが、そんな事は優莉は気にしていなかった。
だが、夫は二人目が欲しい様子だった。
年齢が3つ上の夫は優莉が思った通りの気遣いができないのだ。
夫は子供のような一面があるものの離婚危機に陥るような重大な問題は起きなかった。
優莉から夫に対する恋愛感情は消え、夫にするには最適な男という認識になっていた。
ただただ日常を繰り返し、平凡に過ごす生活になっていた。
社会的には認められていても、どこか頼りなかった夫との第二子を出産する事は考える事ができなかった。
しかし、不自由のない暮らしができている事には感謝しなくてはいけない。
優莉のような生活を送りたくても送れない人もいるに違いないだろう。
一七歳で家を飛出しキャバクラで働き生計を立てて暮らしたのは数年だったが、とても輝いていたと感じていた。
時々思い出しては懐かしく思っている。
証拠にその頃に手に入れた物が手元に数点残っている。
優莉はこの贅沢で退屈な日々をいつまで過ごせば良いのかと考えていた。
Emotions 橘コウ @koutachibana2021
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