世界のどこかで

水無月ひよ子

雪原で

「気持ちいね!」

彼女の快活な声が、雪原と青色の空に響く。

広い雪原には彼女の足跡以外何も無い。まるで彼女のために用意されたかのように、真っ白なままだった。

少し遠くに居るのに、彼女の声ははっきりと僕に届いた。

「うん。」答えたが、聞こえてはいないようだ。

ザク、ザク、と少し硬い雪を踏みながら、彼女に近づく。


「みて、枝につららが出来てる!」

彼女は木に駆け寄り、じいっと眺める。

なぜだか焦らされているような気がして、彼女の元へ急ぐ。

でも、何故彼女はこの雪深い場所を平然と、そして軽やかに走れるのだろう。

近づいてみると、彼女はシン…と黙ったままつららを眺めていた。

そして小さく、「綺麗…」と呟いた。

僕は彼女を見た。

彼女の目には、白の光がいくつも反射して、きらきらと光っていた。

きれいだな、と思った。

彼女自身もそうなのだが、

彼女の見る世界は、僕の見る世界から1枚のフィルターを取り除いた世界なのだ。

世界の美しさをそのまま見ているかのように。



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