死んでお詫び致します

春野オカリナ

プロローグ

 王宮は今、恐怖に襲われている。


 夜会も午前0時の鐘の音と一緒に足早に人気が急に無くなり、警護の為の騎士達も当直を嫌がる始末。


 その原因は、午前0時の鐘の音と共に現れるある令嬢の幽鬼が彷徨っているからだ。彼女の名前はセレンティア・フォレスト侯爵令嬢。


 彼女は二ヶ月前、第二王子ユリウス殿下から婚約破棄を学園卒業パーティーで言い渡され、その際彼女は毒を飲んで死んだのだ。その遺体を王宮の霊安室に納めている。


 ゴ───ン ゴ───ン


 午前0時の鐘が響き渡る中、王宮の長い廻廊に騎士団屈指の親衛隊『鋼の騎士団』ローエンクルス隊が、ある部屋の前で待機している。


 「いいか、皆、今日こそはここを突破させるな!全員死守するんだ───っ!」


 団長のカイザスが団員に激を飛ばしている。


 「来るぞ!構えろ!!」

 

 廻廊に飾っている花が凍りつく。


 パキーン


 張りつめた空気が漂う中、冷気が足元から広がっている。


 「来たぞ───!幽鬼だ!!」


 冷気を纏って現れたのは白いドレスの長い銀髪の女性。その瞳は赤く、つり上がった目尻は睨みつけているように見える。


 闇夜に光る怪しい赤い瞳が団員達の恐怖を煽る。


 ゴクリと息を飲みながら、ジリジリと後退りしながら、攻撃の合図を待っていた。待っていたのだが、中々合図が来ない。


 隣の副団長が固まっている。凍り付いていた。その顔は恐怖の表情を浮かべている。


 「この化け物め───っ」


 若い騎士がその女の幽鬼に向かって突進した。


 ふわっと浮いたと思ったら、次の瞬間若い騎士は凍り付いている。


 そして、騎士達を凍り付かせながら進んでいる。


 「ギャアァァァァァァ────ッ」


 残りの騎士たちは一目散に転げながら、這いずり回って逃げ出した。


 《あら、芸術作品の出来上がりね》


 クスクスと笑いながらその部屋に入った。


 部屋にはブロンクス王国の第二王子ユリウスが寝所にある女性と籠っていた。


 底冷えする程の冷気を感じた王子は、その幽鬼を見て、悲鳴を上げて相手の女性を押しのけて部屋から半裸で駆け出した。


 「助けてくれ────っ」


 しかし、誰も彼を助けようとはしなかった。どの部屋も固く閉ざされている。それもそのはず、幽鬼の標的は王子とその恋人。ターゲットは決まっている。下手に庇って巻き沿いを食いたくない者は中から必死で王子を締め出している。


 「いいか、絶対に王子を入れるな。凍り付いて凍傷になりたくないだろう。この間、親切心を出した者がもう一月以上寝込んでいる。王子がこんな目に遭うのは自業自得なんだ。庇う必要はない!!」


 その部屋の主は全員頷いた。


 そして、今日も王宮の回廊に王子と恋人の断末魔が響き渡ったのだった。




 「ねえ、セレンティア。君何時までこの騒動続けるの?」


 《えー、飽きるまでかな。見て、この顔うけるよね。涙と鼻水まみれだよ。こんなのが婚約者だったなんて私って可哀想でしょう》


 「一応、僕の兄でもあるんだけどね。まあ、いい気味だとは思うよ。君に冤罪をかけて人前で婚約破棄した恥知らずだからね」


 《そうでしょう。私がちょっと復讐してもいいよね。それにしても騎士達も酷い、誰が化け物よ。こんな可愛い私に向かって》


 彼女の無邪気に笑い、頬を膨らます姿を見ながら


  この惨状がちょっとなんだろうか?


 疑問に思いながら、ため息をつく第三王子ラインハルトだった。

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