第22話 ただの点と線の塊(3)

 日が傾き、街のいたるところから乾杯の声が聞こえてくる。目に入る男も女も活力に溢れみな若々しく、枯れた爺さん婆さんなどは一人も見当たらない。若くないとこんなテンションなんて続けられないのかもしれない。


 キョー助は一人で街を歩いていた。終業式が終わってからいろいろありすぎたので、考える時間が欲しかった。まずは状況の整理だ。


 キョー助は白い車に轢かれて死んだ。だが春日が異世界を作りキョー助の生死を保留している。ここでキョー助には2つの道があった。春日の力で生き返るのか、それとも現実世界を守るため、この異世界を壊し死ぬか。キョー助は生き返る道を選んだ。


 その矢先、肝心の春日が赤城に連れ去られてしまった。赤城は異世界の勇者で主人公的な存在だ。赤城が魔王を倒せば異世界は平和になり、赤城を殺せば異世界は崩壊する。


 何の因果か、キョー助は魔王に命を助けられ手下をやることになった。魔王は赤城を倒す方法を探してる。赤城の強さは異常で魔王すら雑魚扱いだ。だが赤城は魔王を殺すのをなぜか先延ばしにしている。


 さらに、異世界に死の闇と同じ色をした裂け目が開いた。別の世界からきた由木によると、世界が滅ぶ予兆らしい。そうなってしまえばキョー助の生き返りも水泡と消える。ついでにいうと泉はただのくたびれた猫だ。


 状況は込み入っていそうにみえるが、やるべきことはシンプルだ。この世界が滅ぶまでに赤城から春日を奪還し生き返ればいい。


 生き返ったら何をしようか。夏休みは残っているだろうか。受験の備えも始めないといけない。大学に入ったら遊んで、就活して、卒論を書いて、それから就職したら、働いて、結婚して、子供を作って、働いて、働いて……そして死ぬのか。


 キョー助は立ち止まった。自分が死ぬ時、何が起きるだろう。春日がまたキョー助の死をなかったことにし、世界中を改変するのではないか。キョー助は生き続け、これからも春日から逃げ回るのか。春日と、春日が作り変えた世界の中で。


 春日が死ぬまでそれが続くのか?春日は死ぬのだろうか?


 キョー助は、自分の人生が無意味な点と線の集まりに見えた。その無意味の中に春日が一人でいる姿が見えた気がした。


間違っている。でも何が間違ってるのか?


 キョー助はゆっくり歩き始めた。一歩踏むごとに、街の喧嘩が、雑踏が消えていく。


 何が間違っているか考えた。見落としがないか探し続けた。それらをひとり何度も何度も繰り返した。

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