第14話 自称魔王様はひとり地獄で微笑む(3)
キョー助と泉は恐る恐るドアの影から中をうかがう。
石造りのフロアの一番奥にカウンターがあり、その手前に丸テーブルが3つ並んでいる。それぞれの上にランプが灯っているだけで全体的に薄暗い。
飾り気は少なく、天井から灯りが消えているシャンデリアのようなのようなものが十数個と吊り下げられているぐらいだ。
フロアの中央のテーブルを囲んでいたゴツいおっさんが2人と、四十ほどの痩せた女がキョー助たちを見ていた。3人の顔には影が濃くかかり表情はわからない。キョー助と泉は首を引っ込めようとすると、3人はキョー助を無視してテーブルの上でバカ話を再開させた。
魔王はフロアのにある階段に歩いていく。通りすがりにゴツいおっさんAの禿げた頭をペシペシ叩いて「こんばんわぁ」と挨拶したが、おっさんAは気にする様子はなかった。
魔王がくるりと振り返って「なにしとるん。早うきぃな」とキョー助と泉を手招く。キョー助は「おじゃましま~す……」とドアをくぐり、魔王と同じよにテーブルの間をすり抜ける。
ふと痩せた女がキョー助を見上げた。キョー助はあわてて「こ、こんばんわ」と挨拶をする。痩せた女は小首をかしげた。キョー助を見ているはずの視線が微妙にずれている。
ゴツいおっさんAが痩せた女に「またか?」と聞いた。女は「ええ……」とぶるっ肩を震わせる。ゴツいおっさんBが「気にするなよ」とガハハハと笑うが、痩せた女はドアを指差し「だって勝手に開いたじゃない!」と泣きそうな声で叫んだ。
ゴツいおっさんAとBは顔を見合わせゴクリと喉を鳴らし、「酒が足りてないんだ。飲め飲め飲め飲めい!」とひときわ明るい声を絞り出してジョッキを仰いだ。痩せた女も「そ、そうね」と青い顔で酒を流し込んでいった。
「僕たち幽霊扱いされてますよね、これ」
泉がいつの間にかテーブルの上に乗っていた。確かに3人はテーブルの上の泉に気づかず、必死にバカ話を盛り上げようとしている。
泉が試しに痩せた女の腕に肉球を押してると、女はいきなり現れた不可視のプニプニに「ひぃぃ!」と青くなって身震いした。
キョー助が「やめとけ」と泉の首根っこをつまみ上げ、これはどういうことか魔王に聞こうと振り返った。
そのとき後ろから冷たい何かに首を撫でられた。
キョー助は心臓が破れるかと思ったが、なんとか悲鳴を飲み込んだ。魔王のいたずらかと思ったが、当の魔王は目の前にいる。泉は右手に持っている。ゴツいおっさん二人と痩せた女はテーブルでひたすら飲んでいる。このフロアにはこの人間4人と魔王一人と猫一匹しかいなかったはずだ。
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