第13話 自称魔王様はひとり地獄で微笑む(2)
夜半を回った街は、真ん中に雷撃が落ちても誰も気にせず、変わらず賑わいを見せていた。ひんやりとした砂漠の冷気が染み込むように街に流れるなか、キョー助たちは魔王を称する少女と肩を並べて歩いていた。
魔王はキョー助が残り物で作ったたこ焼きを頬張っている。キョー助が不思議そうに見ていると、「あんたも食べるかぁ?」と聞いてきた。
キョー助は飲み込んだ爆弾の異物感が酷くて断るが、魔王は「ほれ、あーん」とたこ焼きを差し出した。仕方無しと、テレをごまかし大口でさっさと食べてしまうと、魔王は屈託なく笑った。キョー助はそんな魔王をやはり不思議そうに見ていた。なぜ魔王が勇者赤城がいる街に一人でいるのだろう。
「おつきの従者とかいないのか?」
キョー助が聞くと魔王は「ん?」と口の周りに青のりをつけた顔で振り返る。キョー助が口元を指差すと、魔王は「んー」と顔を近づけてきた。
キョー助はため息を一つついて、ハンカチの焦げていない部分をさがし魔王の口を拭いてやる。ハンカチ越しに魔王の柔らかな赤い唇に触れると、さきの口づけを思い出してへっぴり腰になった。魔王はキョー助の質問に「おらへんよ」とあっさり答えた。
「三巨頭とか四天王は?」
「それもおらへん」
「親衛隊とか悪魔大将軍は?」
「それもないなぁ。そもそも軍があらへんもの」
「じゃあ仲間は?」
「ん」
魔王は長い指でキョー助を指差した。キョー助はこの少女が自分を魔王だと思んでいるたただの中二病患者ではないかと不安になると、魔王はたこ焼きを頬張りながら言った。
「みぃんな赤城はんに殺されてもうたわぁ」
「みんな……って?」
「みんなはみんなや。うち以外の105万1598人。みぃんな赤城はんに殺された」
魔王の紅の瞳は夜の湖のように穏やかだった。その目を前にキョー助は「そうか」というのが精一杯だった。どんな言葉も、その瞳の暗い透明度の底に沈んでしまうように思えたからだ。
二人と一匹は、何も話さずに南北に走る大通りから東に何本か入った通りを南に歩いていた。その先に魔王のアジトがあるという。
通りは自動車がどうにかすれ違えるかという幅で、街灯が少なく、建物の石壁は汚れ、屋台や出店がまばらに並んでいる。営業しているのはその三分の一ほどで、行き交う人も大通りよりずっと少ない。活気で沸騰するこの街にしては暗く寂しい通りだった。
「ここやぁ」
魔王がとある建物の前で立ち止まった。キョー助と泉はその建物を見て「はい?」と間抜けな声を揃えた。
そこは間口は車3台分ほどで3階建て、石造りの建物だった。夜中だと言うのにドアの隙間から薄く灯りが漏れていて、中からは人の談笑が聞こえてくる。上を見るとベッドの絵が書かれた看板がかかっていた。
「宿屋?」
キョー助が訝しむと、魔王は「そうともいうなぁ」と宿屋の扉を引く。扉の鈴がカランカランカランと鳴り、魔王はごく普通に中に入っていった。
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