第捌話 【 戦闘準備 】

「それじゃ、パーティと行こうかッ!!」


 蒼月そうげつの一言で、全員が戦闘態勢に入る──

 その前に、それぞれの戦闘準備が始まった。





「みんな、これを持っててくれ」


 そういって、満月が小さな金属のバッジを作り出す。


「なんだ? これ……」

「超小型の電磁パルスだ」

「……電磁パルス?」

「あぁ……。オレの兵器が誤って、みんなを狙わないようにな」

「そんなもんがあんのか」

「流れ弾でも、これを持っていれば弾いてくれるはずだ」

「なるほど、そいつは便利だな」


 満月のバッチを見ながら、灰夢が感心する。


「満月くんは、こういうところに気が利くわね」

「全員を平等に考えてくれる所、僕も感心するよ」

「まぁ、オレが作った兵器だからな」

「そういうところは徹底してるよな、お前……」

「まぁ、少し迷ったところはあるけど……」

「……迷った?」


 灰夢の疑問に、満月が定義を上げていく。


「蒼月は避けれるし、梟月きょうげつは反射でダメージ無いだろ?」

「まぁ、あいつらはな」

「霊凪さんに関しては、常に不動明王が守ってる」

「あぁ、そうだな」

「リリィも体が再生するし、灰夢かいむも不死身ときた……」

「……おい?」

「その双子はともかく、他は必要かどうか迷った所はちょっとある」


「ちょっと待て……。俺とリリィがバッチリ喰らってんじゃねぇか」

「そこ……。迷わず、作ってよ……」

「治るっつっても、クソ痛ぇんだぞ……」

「そこはまぁ、コスパ削減だな」

「前言撤回、不死身ハラスメントだ。こいつ……」


 すると、突然、蒼月が何かを思い立ったように声を上げた。


「そうだ、ミッチー! 僕もアレ使ってみていいかな?」

「……ん?」


 そういって、蒼月が自分の異空間から銀色の二丁拳銃を取り出す。


「あぁ、そうだな。後で感想を教えてくれ」

「なんだ、そいつは……」

「これね、僕の魔力で打てる銃なんだって。すごく軽いんだよっ!」

「それもまた、満月印みちづきじるしの一品か」



【  双頭魔銃そうとうまじゅう …… ❀ 銀翼ノ鷹 シルバーホーク❀  】



「魔力銃の二丁拳銃型にちょうけんじゅうがたで、マグナムをモデルに作ってる」

「魔力銃なんかも作れるのか、満月……」

「以前、蒼月に合う武器を依頼されてな」


 蒼月が気に入った様子で、拳銃をクルクルと指で回していた。


「僕の魔力が無くならない限りは、弾が尽きることの無い便利品さ」

「なんか、ヤクザ感が増したな」

「悪魔、と言うより……。ただの、悪人です……」

風花ふうか、それは言っちゃいけないやつだ」

「もう庇いきれないよ。灰夢くん……」


 風花と鈴音は、蒼月に哀れみの視線を向けていた。


「……満月印って、他にもあるの?」

「リリィの履いてるハイヒールも、確か満月の特注品だったよな?」

「これ……。凄く、便利……」

「それは、普通のハイヒールとは違うの?」


 鈴音たちに解説するように、満月が再び詳細を表示する。



【  毒殺死針どくさつししん …… ❀ 殺戮死蜂 キロネックス・スピア❀  】



「そんな物騒な名前だったのか、それ……」

「リリィの毒をヒールのカカトから流す為、特殊な設計をしている」

「だから、蹴るだけで花が咲くのか。こいつ……」

「殺すのに、便利……」

「顔は爽やかだが、言葉がエグイな」


 リリィは血まみれの姿のまま、いつもは見せない笑顔を見せていた。


「あとは、梟月もガントレットを持ってる」

「……ガントレット?」


 梟月が袖を捲り、右腕に付いた重そうな腕を二人に見せる。


「梟の、おじさん……」

「その腕って、もしかして……」

「あぁ、義手だ……。だが、コレのおかげで日常生活に支障はない」



【  鋼ノ腕 はがねのかいな…… ❀ 鉄梟 てっきょう❀  】



「状況によって変形できる、形状記憶合金の防具だ」

「凄い。みんな、それぞれの能力に合わせて持ってるんだね」


「狼の、お兄さんも……。何か、あるんですか……?」

「いや、俺は持ってない」

「……そうなの?」

「灰夢は何かと戦うと、すぐ壊すからな」

「俺が本気で死術を放つと、どんなに丈夫でも大体は壊れる」

「お前の力に耐えられる物質なんてないよ」

「まぁ、灰夢くんだもんね」


 どこか慰めのような声で、満月と蒼月が苦笑いをする。


「ちなみに僕の吸っている煙草も、満月印の一級品だよ」

「……そうなの?」

「蒼月の吸っている煙草は、蒼月専用の魔力補給剤だ」

「へぇ〜っ!」

「ミッチーには、いつもお世話になってるよ」

「オレは技術屋だからな。それが仕事だから別にいいさ」

「これで、僕も敵をバッタバッタとやっつけられるっ!」


 嬉しそうな蒼月を見て、灰夢の中に疑問が浮かぶ。


「蒼月って、銃なんか無くっても普通に魔弾を撃ってなかったか?」

「確かに……。前は周りに魔弾を浮かばせて、ポンポンと飛ばしてたよな」

「そこは気持ちの問題だよ。モチベーションが上がるじゃん!」

「むしろ、一度に撃てる弾数が減りそうなんだが……」

「この一撃に、全てを込めるのさッ!」

「人の心でも撃ち抜くのか、お前は……」

「もちろん、狙った獲物は逃がさないっ!」


 片目を閉じたキメ顔で蒼月が銃を構える。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


「──せめて何か言ってよッ!!!」

「未来が見えるお前が外したら、どう考えてもわざとだろ」

「連射モードや、散弾モードにも切り替えられるから安心するといい」

「──そこじゃないんだよっ! 今、欲しい言葉はッ!!!」


 誰も熱い思いに答えてくれず、蒼月は一人、心から涙を流していた。


「そんじゃ、俺も暴れるとするか」

「あっ、灰夢くん。君は暴れすぎちゃダメだからね?」

「……なんでだ?」

「君が本気になると、天候すらも変える一撃を放つんでしょ?」

「あら、そんなことできるの? 灰夢くん……」


 蒼月の言葉に、霊凪れいなが驚きの表情を見せた。


「まぁ、嵐を起こすのとか、大爆発するのとか、そんな死術もある」

「この前も蹴り技で、馬鹿でかい竜巻起こしておったのぉ……」

「お兄ちゃん、竜巻起こせるんですか!?」

「見せてやろうか? 言ノ葉……」

「灰夢くん……。そんなことされたら、私の空間が壊れちゃうわ」


 呆れた顔の霊凪が、横からボソッと小さな声で止めに入る。


「吾輩の障壁も、火を扱う死術の衝撃波だけで割りおったわ」

「なんで、呪霊の力に勝ってんのさ。灰夢くん……」

「分かんねぇけど、試しに使ってみたら壊しちまったんだよ」

「そんな簡単に壊れる代物じゃないでしょ……」


 灰夢の軽い言葉に、月影たちが哀れみの視線を送る。


「狼の、お兄さん……。術の威力が、人間じゃないです……」

「風花に言われると、なんか精神的ダメージでかいな」

「もっと言ってやってよ、風花ちゃん……」


「まぁ、おかげで山神に勝ったんだ。……良いじゃねぇか」

「はい。お兄さん、凄く……。カッコよかった、です……」

「あぁ……。風花ちゃんが、また灰夢くんに落とされた……」

「……ん? ……なんの話だ?」

「も〜、なんでもないよ。この、にぶちんめっ!」


 蒼月は呆れ返るように、灰夢に期待することをやめた。


「そんじゃ、ここでは刀だけにしておくか」

「灰夢って、刀なんか持ってたか?」


 満月みちづきが不思議そうに聞くと、灰夢が手を伸ばし詠唱を始める。


きる血潮ちしおらん。

           ──かしずけッ!!!』



【 黑妖刀こくようとう …… ❀ 雫落 しずくおとし❀ 】



 その瞬間、霊凪れいなとリリィが膨大な力に驚き、

 風花ふうか鈴音すずなが、慌てて背中に隠れ、

 蒼月そうげつは、目を丸くして見つめていた。


「灰夢くん、何それ……」

「なんでも、【 雫落 】って名の妖刀らしい。前に、山の中で見つけた」


 灰夢が刀を軽く持ちながら、蒼月に答える。


「勝手に持ってきたのか? お前……」

「近くの石版に『 選ばれた人しか抜けません 』って書いてあったんだよ」

「まぁ、妖刀って言うんだから、封印でもされてたんだろうな」

「それで試しに抜いたら、抜けた……」

「簡単に抜くなよ……」

「料理に便利なんだ。こいつ、切れ味よくてよ」

「そんなんで料理すんなよッ!!」


 危機感のない灰夢に、満月が全力でツッコミを入れる。


「……どうした? 蒼月、さっきから……」

「なんか、とんでもない妖気を出してるんだけど。それ……」

「……妖気?」


 蒼月の魔眼には、刀から溢れ出るかのように、

 鬼の姿を象った、禍々しい妖気が見えていた。


「その刀、意思を持ってるわね」

「……意思?」

「凄い力を感じるわ。まるで、邪悪な悪霊が封印されてるような」


 霊凪の言葉を聞いて、灰夢が刀を見つめる。


「ん〜、特に何も感じねぇけどなぁ……」

「選ばれた人にしか抜けないって、条件は何だったんだ?」

「血がなんたらとか、清めた水がなんたらとか、誓いのなんたらって……」

「……うろ覚え過ぎるだろ」

「しょうがねぇだろ。石版が欠けてて、読めなかったんだよ」


「こういう呪われた系の武器って、切れないものは無いって言うよね」

は、滑って切れなかった」

「この会話の流れで出てくるモノじゃないよな。『 こんにゃく 』って……」

「俺も初めて、こんにゃくは偉大なんだと知った……」


 何故か、そう告げる灰夢は、無駄に真剣な顔をしていた。


「だがまぁ、他は大体切れるな。刃こぼれしねぇし……」

「その時点で、どう考えても普通じゃないだろ。その刀……」

「抜いた時は、折れてたんだがな」

「……なんで、直ってるんだ?」

「妖刀って書いてあるから、腹に刺して死ねるか試したんだ」

「……おう、それで?」

「刀を抜いたら、刀身が伸びて直ってた」

「ほらぁ、もう絶対ヤバいじゃん。それぇ……」


 満月の頭が処理しきれずに、オネェボイスに変わる。


「人の精気や血を吸って、切れ味や刀身が治ったりするんだね」

「マジかよ、こいつも俺の体から精気を吸ってんのか」

「『 こいつも 』って、他にもあるのか?」

「他も何も、牙朧武がいるだろ」

「……牙朧武?」

「吾輩も灰夢の精気を元に、呪力を生み出しておるからのぉ……」

「あぁ、そうか。そういえば、牙朧武は呪霊だったな」

「……なんで忘れてんだよ」

「いや、何かナチュラルにオレらに混ざってるから……」


 まるで、人のように並ぶ牙朧武に、満月は違和感を消失していた。


「あっちでもこっちでも大人気ですね。お兄ちゃん……」

言ノ葉ことは……。今、それ言われると全然嬉しくねぇぞ……」


 灰夢の丈夫すぎる肉体に、言ノ葉すらも若干引き気味に告げる。


って、なんだろうな」

「お前にだけは言われたくねぇよ、全身サイボーグ……」

「いや、だってよ。霊凪さんが驚いた時点で、冗談の代物じゃないだろ」

「あんま違和感とか感じねぇけど、牙朧武がるむも何か感じたりするのか?」

「吾輩は、お主が知ってて使っておるのかと思っとったわ」

「……知ってたのかよ、早く言えよ」


 冷静に答える牙朧武に、灰夢は鋭い視線を送くっていた。


「……梟月きょうげつはどうだ?」

「わたしは何も感じない。恐らく、普通の人間には分からないのだろうね」

「ほら、俺も普通の人間だってよ」

「目を覚ませ。そう発言してる梟月が、お前には普通の人間に見えるのか?」

「レーザー光線を放つやつは、確かに人間じゃねぇな」


 冷静に考えた灰夢が、キリッとした顔で答える。


「灰夢くんの場合は、生命力がバケモノ過ぎて実感がないだけだよ」

「なんか、日に日に人間の要素が減っている気がする」

「呪霊に死術に妖刀。人間の要素なんて、もう残ってないでしょ……」

「別に、強くなりたくて集めてるんじゃねぇんだがな」


 蒼月の言葉に、少し落ち込む灰夢の肩を、

 何かを諭すように、満月がポンッと手を置いた。


「もう諦めろ、灰夢……」

「おい、満月……。諦めたら、そこで試合終了だぞ?」

「お前は、いつまで延長戦をしてるんだよ」

「俺が死ぬまでだ、決まってるだろ」

「無期限延長戦になっちまうだろ。相手プレイヤー泣いちまうよ」


 満月の言葉にも、灰夢の意志は揺るがない。


「全く、死ねぬ老骨とは、いつ見ても哀れじゃのぉ……」

「パトラッシュ……。俺は、もう疲れちまったよ」

「吾輩もじゃよ。お主が死なぬ限り、吾輩も死ねぬのだから……」


 灰夢と牙朧武が呆れながら、互いを見つめため息をつく。


「とりあえず、灰夢くん。その刀は、他の子に渡しちゃダメね」

「そうだな。一応、気をつけておく……」





 牙朧武と共に、危機感のない冗談を挟みながらも、

 蒼月からの忠告をとりあえず受け入れる灰夢だった。

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