第玖話 【 青眼ノ悪魔 】

「それじゃ、パーティと行こうかッ!!」


 蒼月の ( 二回目の ) 開幕宣言と共に、

 忌み子たちの居場所を守る戦いが幕を開けた。





 リリィがじーっと、巨大な庭園の方を見つめる。


「……? どうした、リリィ……」

「あぁ、リリィちゃんの植物庭園の方にも、妖魔たちが居るのか」



























     ──その瞬間、リリィの目付きが一瞬で殺意に満ちた。



























         『 ──アイツら、ぶっ殺すッ!! 』



























 突然の形相の変化に、風花ふうか鈴音すずなが息を飲む。


「おい、素が出てんぞ。リリィ……」

「お、お兄さん……」

「灰夢くん……お姉さんが、急に……」

「あれは、リリィの【 デストロイモード 】だな」

「……で、ですとろいもーど?」

「自分の大事なものを取られたり、壊されたりするとあぁなる」


「なんか言い方が、子供のワガママ見たいじゃな」

「……似たようなもんだろ」


 灰夢と牙朧武が、ブチギレるリリィに哀れみの視線を向ける。


「……やっぱり、怖い人ですか?」

「自然を愛する良心の反動だ。無慈悲に自然を壊さなきゃ問題ねぇよ」

「……そ、そうなんですね」

「……よかった、のかな?」


 風花と鈴音は怒るリリィを見ながら、少し引き気味に納得していた。


「んじゃ、リリィちゃんには庭園を任せるよ。僕は道場周辺を片付けるね」

「この広場と空の敵は、オレと【 クマのぬいぐるみベアーズ 】で相手をしよう」


「んじゃ、俺と牙朧武がるむは入り口辺りでも掃除すっか」

「うむ、引き受けたぞ。灰夢……」


「では、わたしと霊凪れいなは店の周辺を片付けるとしよう」

梟月きょうげつ……。店を守るついでに、子狐たちこいつらも守っててくれるか?」

「あぁ、構わないよ」


 そういうと、灰夢は風花と鈴音を梟月に預けた。


「狼の、お兄さん……。気をつけて、ください……」

「死なないでね、灰夢かいむくん……」

「ばーか、誰に言ってんだ……」

「それが出来ぬから、こやつは悩んでおるのじゃろ」


 風花と鈴音に向けて、灰夢と牙朧武が笑みを浮かべる。


「さぁ、大掃除の時間だッ!!」

「リリィちゃんが言うと、意味合いが変わるよね」

「いや、今はそっちがあってるだろ」

「全員、無事に戻ってくるんだよ」

「むしろ、敵が心配なくらいだな」

「うふふ、ちゃんと逃がしてあげてね」

「みんな、行ってらっしゃいなのですっ!」


 言ノ葉の言葉を皮切りに、各々は持ち場に向かっていった。



 ☆☆☆



 初めに持ち場に着いたのは、瞬間移動してきた蒼月そうげつだった。


「うわぁ〜、いっぱい居るなぁ……」



「「「 ──ッ!? 」」」



「ナニカ、デテキタ……」

「ニンゲンガ、イル……」

「他人の家の敷地に入ってきといて、今更何を言ってんのさ。君たちは……」


 道場の上に立つ蒼月を見て、妖たちが飢えるように集まり出す。


「ヨウコノチカラ、ヨコセ……」

「ヨウコ、ヨウコ……」

「生憎だけど、僕は持ってないよ」

「ナラバ、ヨウ、ナイ……」

「つれないなぁ、せっかく僕から逢いに来てあげたのに……」


 無視しようとした妖魔たちが、一斉にギロッと蒼月を睨む。


「シニタイカ、ニンゲン……」

「僕が人間に見えるのかい? 嬉しいねぇ……」

「……ナニ?」


 ──その瞬間、蒼月が目に見えるほどの魔力を解き放った。


「──ナッ!?」

「ナンダ、コノマリョクハ……」

「……ニンゲン、チガウ?」

「ちょっとは僕にも、興味を持ってくれたかな?」


 道場の屋根の上から、蒼月が余裕の表情で妖魔たちに笑顔を送る。


「なるほど、ただの人間では無いわけか」

「おや、君は随分と流暢に話せるんだね」


 大きな羽を折り畳んだ妖魔を見て、蒼月が冷静に言葉を返す。


「貴様、何者だ……」

「なぁに、ただの【  】さ……」


 そういうと、蒼月は道場の上から地上に降り立った。


「良かろう。ならば、貴様も我らの力の糧としてやろう」

「そう言ってくれると助かるよ。僕も、試し撃ちの相手が欲しかったんだ」


 蒼月が妖魔に応えるように、二つのマグナムを構える。


「殺れ、下っ端共──」



「「「 ウオォォオォォオォォオッ! 」」」



「おぉ、凄いや。統率が取れてるんだ……」


 一斉に吠え、襲い来る妖魔たちを前にしても、

 蒼月は焦る素振りもなく、観察を続けていた。


「──シネェェ!」

「──チカラ、ホシイッ!!」


 妖魔たちが襲い来ると同時に、蒼月が魔眼を見開く。


「……少しは楽しませてくれよ?」


 そういうと、蒼月は次々と襲い掛かる妖魔たちを、

 クルクルと回りながら、二丁拳銃だけで倒し始めた。


「コイツ、ミモセズニ……」

「コウゲキ、アタラナイッ!?」


 飛んでくる妖術を避けては打ち込み、交わしてはまた打ち込む。

 次に来る攻撃が見えている蒼月には、一切の攻撃が当たらない。


「全員一撃で殺られていくだと? なんなのだ、コイツは……」


 蒼月の圧倒的な力を前に、妖魔たちは動きが読めず、

 後から続くはずだった者たちが、攻撃を躊躇い始める。


「銃の使い勝手いいんだけど、相手が少し物足りないなぁ……」

「ナンナンダ、コイツハ……」

「ほら、どうしたの? 早くおいでよ……」

「…………」

「なんだ、もう終わりかぁ……」


 妖魔たちの弱さに、一人でガッカリする蒼月を見て、

 統率していた黒い羽根を生やす妖魔がニヤリと笑った。


「ハッハッハッ! 面白いな。貴様……」

「……おや? 次は、君が僕と踊ってくれるのかい?」

「よかろう。この私が、直接貴様をひねり潰してくれる」


 コウモリのような羽を持つ妖魔が、その大きな羽を広げる。


「さて、少しは楽しめるといいんだけど……」

「そんなことを言えるのも、今のうちだ……」

「……?」

「貴様も、この私の糧としてくれようッ!!」


 そういって、妖魔が大きな羽をバサッと広げると、

 無尽蔵のコウモリが、蒼月に向かって襲いかかった。


「おや、凄い数だ……。これなら、少しは楽しめそうかな?」


 蒼月は瞬時にマグナムを散弾モードに切り替え、

 周囲から襲い来る大量のコウモリたちに向けた。


「──まだまだ増えるぞッ!!」

「──そう来なくっちゃッ!!」


 数を増やしても必中。例え散弾になろうと、弾の源は蒼月の操る魔力。

 無数の数が襲おうと、魔眼に定められた獲物は確実に撃ち抜かれていく。


「──おのれッ!! コイツッ!!」

「──ほら、もっとだしてみなッ!!」


 どこからともなく、無限に湧き出るコウモリたちが、

 さらに数を巣やして、四方八方から蒼月に襲い掛かる。


「──喰らえッ!! 喰らえッ!!!」

「──ほらほら、頑張ってっ!」


 それでも、両手で構えたマグナムを見もせずに振り回し、

 無数の飛び回るコウモリを、いとも簡単に撃ち抜いていく。


「──何故だ、何故だァァァッ!!」


 数分間の決闘の末、コウモリ姿の妖魔が気が付いた時には、

 空中を舞っていたコウモリたちは、全て地面に落ちていた。


 そんな人間離れした力に、コウモリの妖魔も思わず動揺を見せる。


「い、いったい……。なんなのだ、貴様は……」

「だから、『 ただの悪魔のなり損ないだ 』って……言ってるだろ?」


 そう蒼月は答えると、妖魔の頭に向けてマグナムを放った。


「コ、コウモリマンがやられた……」

「そこまできたら、『 バット〇ン 』にしてあげなよ」


 緊張感の無い声でツッコミを入れながら、蒼月が煙草を吸い出す。


「くっ、貴様……。生きて帰れる未来があると思うなよ……」

「……ん? まだ生きてた。しぶといなぁ……」


 地面に倒れていた大きなコウモリの妖魔が、声を上げながら、

 静かに立ち上がると、無数の小さなコウモリに変わっていく。


「グオオォォォオオオォオォォオオォォォォオオッ!!」

「はぁ、芸がないなぁ……」


 すると、コウモリの妖魔は蒼月ではなく、他の妖魔を襲い出した。


「ナンデ、オレラヲ……ッ!?」

「──ギャァァァァ!!!」


「おやおや、仲間割れかい?」

「所詮、こいつらは私の非常食に過ぎないッ!!」


 そう告げながら、コウモリの妖魔が大きくなって蘇る。


「ありゃ~、もしかして……不死身タイプ?」

「そう。私は血さえあれば、何度だってよみがえることができるのさッ!」


 そういって強がる妖魔の言葉に、蒼月がホッと笑みを零す。


「そっかそっか、よかったぁ……」

「そうだろうっ! 恐れおのの……なんだと?」


 まさかの発言に、妖魔が聞き間違えたように聞き返す。

 そんな戸惑う妖魔に向かって、蒼月が笑って話し始めた。





「いやぁ、本当によかったよかった。

 どっかの誰かさんみたいじゃなくて。


 自分でも理屈が分からないのに、

 何故か、ちりになっても蘇るタイプだと、

 それこそ泥仕合どろじあいがシャレにならないからさ。


 いや、ほんとマジで……」





 蒼月の呆れた笑みに、妖魔たちが動揺を見せ始める。


「……何の話だ?」

「いや、こっちの話さ。ウチの仲間に一人、死ねない体を持つのが居てね」

「ならば、そいつも一緒に喰らって、さらなる力を手に入れてやろうッ!!」


 妖魔は再び無数のコウモリを身体中から召喚すると、

 蒼月の周囲を囲うようにしながら、襲いかからせた。



 その瞬間、蒼月の目が蒼く光る──



























        『 それは無理かな。君、弱いし── 』



























 蒼月が一言はなった途端、突然、空気が変わり、

 飛んでいた全てのコウモリが、一斉に地に落ちた。


「──なッ!? これは、重力魔法ッ!?」

「……残念。これは、重力魔法じゃなく、空間魔法だ……」

「……空間、魔法?」

「この空間全体の重力を、本来の十倍に変えただけだよ」

「そんなこと、出来るはずが……」

「それが出来るんだよ。僕らは君たちとはレベルが違うからね」

「──き、貴様ッ!!!」


 大きくなったコウモリの妖魔が、頭に血を登らせ、

 陽気な顔で見つめる蒼月に、無理やり襲い掛かる。


「ヴアアアァァアァァアアァァァァアアッ!」

「もう、遅いんだよ」


 そういって、蒼月が妖魔に人差し指を向けると同時に、

 コウモリの妖魔の動きが、その場にピタリと止まった。


「……なっ、う……動けぬ……っ……」


 見たことの無い魔術に動揺しながら、妖魔が蒼月の顔を睨む。

 すると、前に手を伸ばした蒼月が、片目を瞑りながら告げる。



























   『 血を吸うしか脳のない蚊じゃ、僕も彼も殺せやしないよ 』



























            『 ……絶対に、ね 』



























     【  ❖ 空間魔術・万物の阻む怪なる重みアノマリア・グラウィタス ❖  】



























「ギャァアァァアァァアァァアアッ!!!」


 蒼月は迷うことなく、コウモリの妖魔を空間ごと握り潰した。


「…………」

「シ、シンダ……」

「コウモリマン、ヤラレタ……」


「ふぅ……。さて、君たちはどうする?」


「──ッ!?」

「コイツ、ヤバイ……」

「シニタク、ナイッ!」

「ニゲル……」


 蒼月が笑顔で振り向くと、周りの妖魔たちが一斉に逃げ始める。


「あらら、逃げちゃった。……まぁ、十分か。さて、他は終わったかな〜?」



























    戦いを終えた蒼月は一人、煙草を吸いながら、


           乱れた自分の服を整え、空を見上げて呟いた。



























「早いとこ、風呂で酒が飲みたいなぁ……」

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