第肆話 【 娯楽 】

 ミーアが来てから数日。灰夢は部屋で寛ぎながら、

 昔のゲームを漁り、一人で黙々とプレイしていた。





 そんな灰夢の部屋に、コンコンッとノックが響く。


「……あいよ、誰だ?」

「あの、お兄さま……。少し、よろしいですか?」

「ミーアか、入っていいぞ……」

「では、失礼させていただきますね」


 ミーアは許可を得ると、灰夢の部屋の扉を開けた。


「お兄さま、何をしていらっしゃるのですか?」

「テレビゲームだ、知ってるか?」

「……テレビゲーム?」


 頭にハテナを浮かばせながら、ミーアが周りの機材を見つめる。


「お兄さま、こちらはなんですか?」

「これは、スーパーファ〇コンっつぅゲームだ」

「……スーパ〇ファミコン?」

「あぁ……。テレビで遊ぶゲームで、いわゆる『 娯楽 』だな」

「なるほど、こういう娯楽もあるのですね」


 灰夢の横に山積みにされたゲームのカセットたちを、

 ミーアが不思議そうな表情を浮かべながら漁っていく。


「ミーアは娯楽っていったら、何が浮かぶ?」

「そうですね。ワタクシは『 乗馬 』……などでしょうか」

「あぁ、なんか貴族っぽいな」

「まぁ、ワタクシはあまり、そういう経験は出来ませんでしたが……」

「……そっか」


 少し苦笑いをしたミーアを見て、灰夢はコントローラーを渡した。


「お前も、やってみるか?」

「……よろしいのですか?」

「あぁ……。これは一番簡単のゲームだから、お前でも出来る」

「……一番簡単?」

「ここに刺さってるカセットによって、ゲームの内容が変わってな」

「ということは、ここに並んでいるカセット全てが、別のゲームだと?」

「あぁ、そういうことだ……」


 ミーアが興味津々な顔で、渡されたコントローラーを握る。


「こちらは、なんというカセットなのですか?」

「これは、【 スーパーマ〇オブラザーズ 】って言うんだ」

「ブラザーズということは、ご兄弟のゲームですか?」

「あぁ、二人プレイだと弟が出てくる。普段は兄だけだがな」

「そのお二人が、何をするのですか?」

「一国の姫を救う為に、襲ってくる敵を倒して行くんだ」

「なるほど、ご兄弟が皇女を救うまでを体験するゲームなのですね」

「そうだ。意外と面白いから、熱中するぞ……」

「ふふっ……。では、お言葉に甘えて……」


 ミーアはコントローラーを構えると、説明を受けながら、

 人生初のテレビゲームという娯楽を、早速プレイし始めた。


「このドカンに入れる赤い帽子のオジさまが、お姫様さまを?」

「あぁ……。『 ク〇パ 』っつぅ亀のバケモノを倒して、姫を救うまでが物語だ」

「つまり、ワタクシは、今、この赤い帽子の方になるのですね」

「そうだ。オッサンに成りきって、姫を救い出すヒーローになれ……」


 ミーアが操作を覚えながら、淡々とゲームを進めていく。


「この方は、動きがゆっくりなのですね」

「普通の人間からすれば、割と速いんだぞ。こいつ……」

「ふふっ……。なんだか、怪盗さまになった気分です」

「まぁ、お前の時の展開と似てるところはあるかもな」

「そう思うと、この帽子の方は、お兄さまみたいですね」

「その言われ方は、全く嬉しくねぇよ。ミーア……」


 笑顔でオヤジキャラに例えてくるミーアに、灰夢が冷めた視線を送る。


「こちらのゲームは、シリーズが多いのですよね?」

「あぁ……。現代でも新作が出るくらい、大人気の作品だ」

「それだけ何度奪われても、再び助けてくださる殿方は素敵ですね」

「というか、ク〇パが諦め悪すぎるだけな気がするんだが……」


 ミーアは楽しそうにプレイを進めると、幾度かやられながら、

 経験を積み重ねていき、徐々にステージをクリアしていった。


「おや、なんだか背景が変わりましね」

「ここはボス戦だ。さっき話してた、亀のバケモノが出てくるぞ」

「こちらは、どうやって倒したらよろしいのですか?」

「ジャンプで攻撃を避けて、後ろにある鍵に触れたら勝ちになる」

「なるほど、頑張ってみますっ!」

「あぁ、頑張れ……」


 ミーアがアワアワしながらも、必死に攻撃を交わしていく。


「おぉ、上手い上手い……」

「ですが、攻撃の数が多いですね」

「まぁ、一応ボスだからな」

「……あっ!」


 必死に避けるも健闘虚しく、ミーアはやられてしまった。


「あぁ、やられてしまいました……」

「まぁ、初めてにしては、よくやった方じゃないか?」

「ですが、悔しいですね」

「だからこそ、またやりたくなる。そして、勝った時が嬉しいんだ」

「なるほど、とても興味深いです」

「そして、マ〇オも姫の為に、何度殺られても立ち上がる」

「素敵ですね。とても頼もしいナイト様です」


「まぁ、慣れるとクリアも一瞬なんだけどな」

「お兄さまは、もうクリアされたことがあるのですか?」

「あぁ……。かなり古いゲームだし、ステージも変わらねぇからな」

「お兄さまのプレイを、見せていただいてもよろしいでしょうか?」

「……ん? 別にいいが、俺は敵の動きも全部知ってんだぞ?」

「プロの動き方というのもを、見てみたいのです」

「別に、プロって訳じゃあねぇが……。まぁいいか、貸してみ……」


 灰夢がコントローラーを受け取り、ゲームをスタートする。


「お兄さまは、全く止まりませんね」

「俺の場合、次にどこから敵が出てくるか分かってるからな」

「こちらは、敵の場所や攻撃は変わらないのですか?」

「一部にランダム要素はあるが、ほぼほぼ同じだ……」

「お兄さま、攻撃をされる前に避けていらっしゃいますね」

「このゲームには倒せない敵もいる。まぁ、『 逃げるが勝ち 』ってやつだな」


 灰夢は一度も止まることなく、初めのステージをクリアした。


「これだけの困難を前に、恐れることなく走り抜けられるとは……」

「もうマ〇オも戦い慣れし過ぎて、飽きるレベルだろ」

「危機感の無さが、お兄さまらしいです」

「まぁ、今のマリ〇の中身は俺だからな」


 そんな話をしながらも、灰夢が次々とステージをクリアしていく。


「正直、なんでこの恋物語が許されるんだろうな」

「……おかしいのですか?」

「そりゃな。土管工事のオッサンと、一国の姫だぞ?」

「確かに、そう言われると身分の差を感じますね」

「まぁ、恋愛は自由を主張するには、いいゲームなのかもだが……」


「この国では、恋愛は自由なのですか?」

「あぁ……。昔は政略結婚もあったが、今の時代に身分は関係ねぇよ」

「なるほど、それは素敵ですね」

「まぁ、本気で好きなら、マ〇オとピ〇チ姫くらい素直でもいいと思うけどな」

「そうですね、本当に……」


 無気力にプレイしている灰夢の横顔を、ミーアが静かに見つめる。

 そんな話をしているうちに、灰夢はボスまでを一発でクリアした。


「……っとまぁ、クリアするとこうなる」

「なんだが、最後が一番呆気なかったですね」

「まぁ、ク〇パはすり抜けたら終わりだからな」


「こちらが、先程話していたお姫さまなのですね」

「あぁ、〇リオの愛しのピ〇チ姫だ……」

「なるほど……。マリ〇さまは永遠の誓いを、この方に……」


 ミーアがピ〇チ姫を見つめながら、そっと灰夢の服を掴む。


「……どうした?」

「あっ、いえ……。申し訳ありません、なんでもないのです……」

「……ん?」


 ミーアは顔を赤くしながら、小さく俯いていた。


「何かあるなら、言ってみ?」

「いえ、あの……。大したことでは、無いのですが……」

「……?」

「ただ、その……」




























   「 なんだか、お兄さまが取られてしまう気がしてしまいまして…… 」



























 ミーアが耐えられないと言わんばかりに、

 赤く火照った自分の顔を、パッと両手で隠す。



 ( やべぇ……。不覚にも『 可愛い 』とか思っちまった…… )



 そんなミーアの頭に手を置くと、灰夢は小さく笑って見せた。


「……お兄さま?」

「俺はどこにも行かねぇよ」

「……本当ですか?」

「あぁ……。今の俺は死んでもお前を守る、不死身のナイト様だからな」

「えへへっ……。信じておりますよ、お兄さま……」

「あぁ、任せとけ……」


 灰夢の言葉を聞くと、ミーアは満面の笑みを見せた。


「次は、こんなのどうだ?」

「こちらは、なんというゲームなのですか?」

「【 影〇伝説 】って言ってな。俺の好きな作品の一つだ……」

「なるほど……。この表紙絵の方は、ニンジャという方でしょうか?」

「あぁ、そうだ。よく知ってるな」

「昔、お父さまに話を伺ってから、ずっと会ってみたいと思っていたのです」


「そうなのか。どうだ? 実際に会ってみた感想は……」

「そうですね。聞いていたより、女性が多い印象でした」

「いや、それは夜影衆が特殊なだけでだな」

「男性のニンジャにも、会ってみたいものです」

「……今、目の前にいるだろ」

「……え?」


 二人の間に、数秒の沈黙が走る。


「──えっ!? お兄さまもニンジャだったのですか?」

「まぁ、一応な。今の時代には通じねぇから、運び屋を名乗ってるが……」

「確かに……。お兄さまは周りの方より、とても【 和 】を感じますね」

「生まれた時代が時代だからな。こういう格好の方が落ち着くんだ」


「では、ワタクシは憧れのニンジャに出会えていたのですね」

「そうだな。なんなら、それに盗まれてきたからな? お前……」

「ふふっ……。ワタクシ、お兄さまに盗まれちゃいました……」


 幸せそうなミーアの笑顔に、灰夢も小さな笑みを返す。


「その笑顔が見れただけでも、盗んできた甲斐があったな」

「ワタクシはお兄さまに盗んでいただけて、本当によかったです」

「……そうか」

「……はい」


 ミーアの素直な気持ちに、灰夢はホッと胸を撫で下ろしていた。


「せっかくだ、このゲームもやってみるか?」

「こちらは、何を目的にするゲームなのですか?」

「これもさっきと同じ、姫を救うゲームだ……」


「む〜っ! お兄さま、意地悪ですよっ!」

「いや、だいたいこういうのって、ヒロインを救うしかやることねぇんだよ」

「そうなのですか? ワタクシ、少々ヤキモチでございます」


 ミーアが不満そうな顔をしながら、頬をぷっくらと膨らませる。


「なら、しょうがねぇ……。次世代のゲームをやるか」

「……次世代のゲーム、ですか?」

「あぁ……。時代を追うごとに、ゲームのジャンルは増えていくからな」


「今では、どのようなゲームがあるのですか?」

「口で言うよりは、やってみる方が早いだろ」

「そうですね。色々と教えてくださいませ、お兄さまっ!」

「あぁ……。お前の知らない新しい世界に連れて行ってやるよ」

「ふふっ……。お兄さまとの初体験、ドキドキ致します」

「ミーア、言葉は選べ……」

「……はい?」





 それから灰夢は数時間の間、ミーアに教えながら、

 年代とジャンルを変えつつ、娯楽に時間を費やした。

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