第拾壱話【 彷徨う亡霊 】

 灰夢とクラーラが城の地下で、かつての英雄の話をしていた頃、 

 幽々、透花、沙耶、恋白、ノーミーは、観光名所を巡っていた。





「おぉ、これが噂に聞いた大聖堂デスか」

「綺麗っすね。見た目もっすけど、中もやばいっす……」

「この国に来たなら、一回は見ておきたかったんだ……」

「そうですね。これは、とても思い出になりそうです」


 子供たちが目を輝かせながら、大聖堂の隅々まで見て回る。


「こんな所、生まれて初めて見ました……」

「幽霊さんは、もう生涯が終わってるっすけどね」

「こういうの、ダークマスターの好きな死にゲーに出てくるデスね」

「運び屋さん。死にた過ぎて、ついに死にゲー好きになったんすか」


「他にも行ってみたい城があるんだが、いいかな?」

「城、いいっすねっ! 古城は見てみたいっす!」

「ゆ、幽々も……。もっと見たいです……」

「行くデスよっ! 時間は限られてるデスからねっ!」

「皆様……。転ばないよう、お気をつけくださいね」


 その後も五人は、多くの観光スポットを堪能していた。



 ☆☆☆



 夕暮れ時になり、元の街へと戻った五人が街道を歩く。


「やっぱり、ここの街並みは何よりも落ち着くっすね」

「壁に囲まれた古い街並み、この街全体が観光スポットだな」

「本当に素敵な街ですね。まるで、デートコースのようで……」

「主さまがいらっしゃったら、完璧でしたね」

「残念ながら、その本人は城で大仕事っすからね」

「でも、この国のお姫さまに会うのも楽しみデスねっ!」

「そうですね。主さまも、そろそろご用意をされてる頃でしょうか」


 すると、不意にノーミーが、脇道を見て立ち止まった。


「ねぇ、みんな……」

「……ん? どうしたんすか? 精霊さん……」

「こっちの道、なんか秘密のルートっぽくないデスか?」


 裏世界への入口のような道に、ノーミーが目を輝かせる。


「ほほぅ……。確かに、これは興味深い……」

「……そうっすか?」

「ここから、レアアイテム屋さんに繋がってたりするかもしれないだろ?」

「またまたぁ……。アニメの見過ぎっすよ、沙耶姉……」

「でもでも、夢が拡がっていて面白いですね」

「何事も冒険デス、行くデスよっ!」

「うふふっ……。皆様、迷子にならないでくださいね」


 五人が街を巡る為、人通りの少ない道を散策していると、

 道のド真ん中に、頭のないプレートアーマーが立っていた。


「……ん?」

「おぉ、本物のアーマーがあるデスよっ!」

「なんで、こんな所に立ってるんだ?」

「これ、何かに吊るされてたりもしないっすよね」

「鎧の中も、空っぽです……」

「こんなに整っているのに、頭だけがどこにもないな」

「誰かが、頭だけ持って行っちゃったんデスかね」


 どういう原理か、その場に立っているアーマーに、

 興味を引かれた子供たちの視線が、釘付けになる。


「これ、着てみちゃダメデスかね?」

「いや、それはダメだろう」

「そうデスよね、やめておくデス……」

「ほらほら、先に行くっすよっ!」

「そうだな、もっと奥に……ん?」


 過ぎ去ろうとした子供たちと共に、沙耶が歩き出すと、

 からのはずのプレートアーマーが、沙耶の腕を掴んでいた。


「ほわあああぁぁあああっ! ちょっと待ってぇ〜っ!」

「……ん? どうしたんすか?」

「あれ、手が掴まれて……」

「……え? あれ、動くんすかっ!?」

「ちょちょちょ、離してぇ〜っ!」


 パニックになる沙耶の元へ、恋白が冷静に歩いていく。


「申し訳ありません。沙耶さまを離していただけますか?」

「…………」

「──ッ!?」


 恋白が話しかけた途端、突然、アーマーが恋白を掴みにかかり、

 それに気がついた恋白が、沙耶を連れて子供たちの元へと避けた。


 その拍子に、沙耶を握っていたアーマーの左腕が外れ地に落ちる。


「お、おぉ……。恋白くん、ありがとう……」

「……何でしょう。今、とても嫌な感じが致しました……」

「……え?」


 恋白が睨むように、アーマーをじーっと見つめる。


「あのアーマー、腕の中も空っぽっすね」

「さっき見た時は、確かに胴体の中も空洞だったはずだ……」

「……ど、どういうことデスか? ゴーストマスターの仕業デスか?」

「あわわわわわ……。出た出た、幽霊が出ましたぁ……」


 幽霊に怯える幽々に、沙耶、透花、ノーミーの三人が言葉を失くす。


「うん、違うみたいデスね」

「なら、あれは……」


 アーマーだけが動いている謎現象に、子供たちが目を疑う。

 すると、アーマーはこちらを向き、腰に付いた剣を抜いた。


「うわわわわっ! 剣を抜いたデスよっ!」

「あれはまた、別の幽霊か何かっすかっ!?」

「幽々の友達には、なってくれそうじゃないです……」

「いや、落ち込むところがおかしいだろ。幽霊くん……」

「皆様、お下がりくださいませ……」


 恋白が静かに前へと歩み、手をかざして詠唱を始める。



























    『 みず加護かごよ。はがねきよめ、われまもたてとなれ。


             きよめしみずよ、やいばみ、はがねをも穿うがほことなれ 』



























     【  水神武具すいじんぶぐ 大薙刀おおなぎなた  ……  ❀ 大天鬥凪・棘 おおあまつなぎ・おどろ❀  】



























 目の前に水の柱が立ち上り、恋白は中に手を入れると、

 大きな薙刀を取り出し、それを軽々と扱うように構えた。


「お、おぉ……。恋白さん、かっけぇっす!」

「白蛇さん、凄い……」

「この人も、やはり只者ではないな」

「カッコイイデスっ! なんだか、ダークマスター見たいデスっ!」

「皆様も油断なさらないよう、お気をつけください」


 恋白がアーマーを睨みながら、ゆっくりと歩み寄る。


「あまり騒ぎは起こしたくないので、早めに終わらせていただきます」

「…………」


 アーマーが無言で剣を構えると、恋白も薙刀の構えに入った。



 <<< 薙ノ流水なぎのりゅうすい壱ノ型いちのかた仙水破斬せんすいはざん >>>



 向かってきたアーマーを、恋白が目の前まで引き付けてから、

 一瞬でアーマーを通り過ぎ、目にも止まらぬ速度で切り刻む。


「おぉっ! す、凄いっす……」

「これぞまさしく、神業デス……」

「幽々の目には、動きが見えませんでした……」

「鉄のアーマーが、バラバラに……」


「ふぅ……。皆様、お怪我はございませんか?」

「は、はい。大丈夫っす……」

「いやぁ、びっくりした。何だったんだ……」

「全く、異世界は不思議なことが多いデスね」

「嫌な予感が致します。早いところ、宿の方まで戻りまし──ッ!?」


 ホッと一息ついた瞬間、紫色の魔法陣が周囲を取り囲んでいく。


「──な、なんだっ!?」

「──これは、まさか……」


 すると、魔法陣の中から、いくつものアーマーが姿を見せた。


「ちょ、ヤバいっす! めっちゃ大量にでてきたっすよっ!」

「こ、こここ、怖いです……。ゆ、ゆゆ、幽霊がたくさんいます……」

「いや、あなたも同じ幽霊デスって……」

「皆様のことは、わたくしが必ずお守り致します」


 剣を構えるアーマーたちを見た恋白が、再び薙刀を構える。


「……恋白さん」

「……恋白くん」

「……白蛇さん」

「……スネークマスター」


 それを見た子供たちも、お互いの顔を見つめ合うと、

 恋白に続くように、アーマーたちと戦う構えに入った。


「今度は、ワタシたちも戦うデスよっ!」

「目立たないように、素早く静かに倒すっす!」

「ボクたちのことを、甘く見ないでくれたまえ……」

「ゆ、ゆゆ、幽々も……。が、頑張ります!」

「皆様……。ふふっ、ありがとうございます」


 五人が背中を合わせながら、周囲のアーマーを睨みつける。


「灰夢さまのお目付け役。夜刀神 恋白、推して参りますッ!!!」

「ヴァァァ……」


 一人のアーマーが剣を向けると同時に、周囲のアーマーが動き出す。

 その瞬間、子供たちが一斉に、向かい来るアーマーに忌能力を放った。


『 なんじかせを、はなて── 』



 <<< 忍法にんぽう仙人せんにん足運あしはこび >>>


 <<< 隠密秘術おんみつひじゅつ清空透化しんくうとうか >>>



 身体能力を強化された透花が、次々と敵を薙ぎ払う。


「へっ……。こんな程度じゃ、準備運動にもならないっすよっ!」

「まだまだ敵は多い。油断するんじゃないぞ、透花……」

「うっす、もちろんっす!」


 すると、奥にいたアーマーが、大きく空へと飛び上がった。


「──来るぞ、透花ッ!」

「──上等、負けないっすよッ!」



 <<< 地の精霊術・魔を穿つ黒騎士 ディモニウム・ターグン・シュヴァルツ・リッター>>>



 透花が構えていると、高く飛んだプレートアーマーを、

 横から飛んできた黒い騎士が、真っ二つに切り落とす。


「おぉ、凄いっす。こっちにも鎧の騎士が……」

「ダークマスターが考えてくれた、砂鉄の騎士デスっ!」


 ドヤ顔を決めるノーミーの後ろを、大量のアーマーが飛び交う。


「う、うう、うらめしてください~っ!!!」



 <<< 霊能忌術れいのうきじゅつ過重超念力サイコキネシス >>>



「幽霊くん、めちゃくちゃ強いじゃないか」

「きゃ~っ! 幽霊は怖いから来ないでください〜っ!」

「だから、君も幽霊だろ。って、聞こえていないな」


 パニックになりながらも、幽々がアーマーを吹き飛ばしていく。



 <<< 薙ノ流水なぎのりゅうすい肆ノ型よんのかた鏡水残花きょうすいざんか >>>



 吹き飛んだアーマーの先では、恋白がグルグルと大薙刀を振り回し、

 次々と降り注ぐアーマーを、目にも止まらぬ速度で切り捨てていた。


「こ、恋白さん……。マジ、やばいっすね……」

「あの大量のアーマーが、一瞬でバラけていく……」

「あんなの向けられたら、幽々でも避けられません……」

「さすが、ダークマスターのお世話係デスね」

「ふふっ、お褒めに預かり光栄です」


 恋白が薙刀を構え直し、穏やかな笑顔で子供たちに応える。


 すると、残りのアーマーたちが、避けるように道を開け、

 その真ん中から、仮面を付けたマントの男が姿を見せた。


「まさか、オレ様以外にも、こんなに強い奴がいるとはな」

「やれやれ、ようやく出てきたな」

「……お前が黒幕っすか」

「コイツ、いったい何者デス……」


 子供たちを守るように、恋白が前に立ち、大きな薙刀を構える。


「あなたが【 彷徨う亡霊ゴースト 】……で、ございますね?」

「ほぅ……? このオレ様を知っているのか、この国の者じゃなさそうだが……」

「お噂だけは、街の至る所で耳にしましたので……」

「ははっ、オレ様も有名になったもんだ……」


 男は不敵な笑みを浮かべると、バサッとマントを開いた。



「そう、このオレ様こそが彷徨う亡霊ゴースト。欲しいものは何でも盗む、伝説の怪盗だッ!」



 堂々とした態度で語るゴーストに、子供たちが警戒を高める。


「ゴースト、送り狼さんが言ってた人です……」

「ということは、こいつが竜具とやらを持ってる男か」

「でも、ワタシたち五人で戦えば、きっと……」

「そうっすね。自分たちだって、ただやられるだけじゃないっす!」


 戦う覚悟を見せる子供たちの前に、恋白が手を伸ばし道を塞ぐ。


「……恋白さん?」

「皆様……。今は戦うことではなく、逃げ切る方面でお考え下さい」

「……逃げるデスか?」

「恐らくですが、この者はかなり手強い。真っ向から向かうのは危険です」


 異様な力を放つゴーストを、恋白が睨むように警戒する。

 すると、そんな恋白をじーっと見つめ、男が小さく呟いた。


「お前、綺麗だな」

「……は?」

「姫ほどじゃないが、お前も負けず劣らずいい女だ……」


 ゴーストの発言に、恋白と子供たちが口を開けたまま固まる。


「コイツ、何を言ってるっすか?」

「さぁ、恋白くんが初恋の人に似てたんじゃないか?」


「……決めた。特別に、オレ様の女にしてやるっ!」


「なんか、思考がやばい人なの……」

「初対面で告白は、なかなかレベルが高いデスね」


 すると、男の告白に応えるように、恋白は薙刀を向けた。


「申し訳ありません。わたくしには、心に決めた殿方がおりますので……」

「……何だと?」

「ご生憎ですが、あなた様の元に赴くことは致しかねます」

「オレ様の誘いを断るとは……。いいだろう。ならば、せいぜい抗って見せろ」


 不敵な笑みを浮かべる男が、懐から無駄に豪華な装飾の剣を取り出す。


「あれが、聖剣……」

「あれと本気で交えるのは、さすがにやばそうっすね」

「わたくしが時間を稼ぎます。その隙に、後方を突破してくださいませ……」

「わ、わかった……。恋白くんも、気をつけるんだぞ……」


 その場に恋白を残し、子供たちが後ろのアーマーたちと向き合う。

 そして、恋白が迎え撃とうと構えると、ゴーストは聖剣を掲げた。


「お前らはもう、逃げられない」

「……?」


 剣が眩い光を放ち、足元に大きな魔法陣が浮かび上がる。



























       【  ❖ 聖天魔術・魔ヲ鎮める聖天ノ光 マギ・ホゥワ・ハイリッヒ・リヒト❖  】



























 その瞬間、沙耶と透花の横にいたノーミーと幽々が

 まるで、気を失ったかのように、その場に崩れ落ちた。

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