第漆話 【 毒蛇を喰らう者 】

 灰夢と満月が、祠の祭壇にいた頃、

 真希は一人、村の中を散策していた。




( ……父さん、母さん )



 家は崩れ、人の遺体は白骨化し、村の畑は枯れ果て、

 豊かだった頃の村の面影は、微塵も残っていなかった。



( 手付かずの自然だけは、まだ大丈夫そうだな )



 まだ崩れていない家の中で、痕跡を探していると、

 外から森にいる小鳥が、一斉に羽ばたく音が響いた。


「──なんだ?」


 真希が慌てて建物を出ると、建物の屋根から声が響いた。



























         『 新しい、人間。獲物、見つけた 』



























「──ッ!?」


 真希が振り返り、屋根の上を見上げると、

 緑の羽をした、巨大な怪鳥が羽ばたいていた。


「でたな、悪魔──ッ!」

『獲物、逃がさない』


 怪鳥が爪を大きく広げ、勢いよく真希に襲いかかる、

 それを、真希は交しながら、洞窟の入口へと逃こんだ。


「ここなら、背後は取れないだろッ!」

『小賢しい、人間……』



 <<< 怪鳥奇術かいちょうちじゅつ鴆毒暗舞ちんどくあんぶ >>>



 怪鳥が口から、紫色の霧を吐き出す。


「毒を使うのも、既にお見通しだ……」


 真希はリュックサックから、ガスマスクを取り出し、

 それと一緒に、中にあったロケットランチャーを構えた。


「お前を殺すために、私はここまで来たんだ……」


 毒の霧の中から、センサーで怪鳥を探し、

 真希がロケットランチャーの狙いを定める。



























      「 私の村を、返してもらうぞ。悪魔──ッ!! 」



























      <<< ロケットランチャー・発射ッ!!! >>>



























 ロケットランチャーが放たれると、怪鳥の腹部にヒットし、

 そのまま怪鳥が地上へと落下すると、大きな衝撃が響き渡った。


「ふぅ、思ったより呆気なかったが、これでやっt──ッ!?」


 真希がホッと息を吐いた途端、落ちた怪鳥が再び動き出す。


『人間っ! 人間っ! あぁ、小賢しい……キェェェェッ!!!』

「──ッ!?」


 怪鳥が怒りながら、鳴き声を上げると、

 島全体が、大きな地震のように揺れ動いた。



「──なんだ、あれはっ!?」



 真希が村の外を見渡すと、周囲の森全方向から、

 どこからともなく、怪鳥の大群が村に押し寄せる。


『人間、獲物……』

『新しい、餌……血肉、喰らう……』

『愚かな、娘……』

『仲間を、傷つけた……』


 大量の怪鳥が、上空で羽ばたきながら一斉に喋り出す。


「は、ははっ……そうか、上等だ……なら、たっぷりとくれてやるッ!!!」


 焦りを隠しながら、真希がリュックの中から、鉄のパーツを取り出す。

 それを素早く組み立て、防壁を貼り、真ん中にミニガンを取り付ける。


「蜂の巣にしてやる。全員まとめてかかってこいっ!!」



  <<< ミニガン・射撃開始ッ!!! >>>



『キエェェェェェェェッ!!!』


 一斉に怪鳥が羽ばたき、真希に向かって毒の霧を撒く。

 それを諸共せずに、真希はひたすらミニガンを連射していた。



「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね──ッ!!!!」



 復讐に取り憑かれるように、真希が鴆に向かってミニガンを放つ。

 すると、一体の怪鳥が、撃ち落とされるように地上に落ちた。


『キエェェェェェェェッ!!!』

「まずは一体、次はどいつだ──ッ!!!」


 二体目、三体目と……真希が地上に撃ち落としていく。


「人間様を甘く見るなよ。私は、お前らなんかに負けはしないッ!!!」

『キエェェェェェェェッ!!!』


 その瞬間、一匹の怪鳥の甲高い鳴き声が響くと共に、

 怪鳥たちが真希に向かって、一羽を棘のように飛ばした。



 <<< 鳥獣演舞ちょうじゅうえんぶ緑扇乱羽りょくせんらんう >>>



「──なっ!?」


 真希が洞窟の中に、転がりながら逃げ込むと、

 怪鳥の羽がミニガンや防壁を貫き、一撃で砕いた。


「──くそっ、まだだっ!!」


 真希がリュックサックから、マシンガンを取り出し、

 再び洞窟の外に出て、空に飛んでいる怪鳥に向けて放つ。


「オラオラオラオラオラオラオラオラ──ッ!!!」

『キエェェェェェェェッ!!!』



 <<< 怪鳥奇術かいちょうきじゅつ鴆毒漿液ちんどくしょうえき >>>



 怪鳥たちが、口から液体を吐き出し、一斉に真希に掛ける。


「──なんだっ!?」


 それを、真希が転がって避けると、後ろにあった木が溶けていた。


「なんだこれは、毒液……!?」

『キエェェェェェェェッ!!!』

「なっ、しまっ──」


 驚いている隙に、鴆の群れが一斉に毒液を飛ばす。

 それを真希は避けきれず、頭を抱えて丸くなった。



























          「 ……すまない、みんな…… 」



























         その瞬間、目の前に大きな羽織が靡いた。



























       「 いや、数多くね? サファ〇パークかよ 」



























「──っ!?」


 その声と共に、真希がゆっくりと目を開け、前を見る。

 すると、自分ごと包んだ巨大な影狼の中に、灰夢が立っていた。


「……か、灰夢っ!?」

「おう、よかったな。また生きて会えて……」

「なんだ、この黒い壁は……」

「俺の影だ、外に出るなよ。あんまり動かれると足でまといだ……」


 灰夢を見た怪鳥たちが、動揺し動きを止める。


『人間、増えた……』

『どこから、湧いた?』

『何か、いる……』

『黒い、鎧……』


「おぅおぅ、覚えたての単語をポロポロと……オウムか? あれは……」

「灰夢、そんなこと言ってる場合じゃないだろっ!」

「そぅ怖い顔すんなよ、別に甘く見てるわけじゃねぇよ」


 灰夢が真希の方に振り返り、そっと、自分の羽織をかける。


「な、なにを……」

「腕、擦りむいてんぞ。毒霧を使うんだろ? 皮膚や傷口は出さねぇ方がいい」


『……人間、小賢しい。獲物、捕食』


 一体の鴆が勢いよく急降下し、くちばしを広げ、

 後ろを向いている灰夢に、一直線に向かってくる。


「灰夢、後ろだっ! 奴が──ッ!」



 <<< 幻影呪術げんえいじゅじゅつ悪食あくじき >>>



 その瞬間、一直線に向かって来ていた、巨大な緑の怪鳥を、

 横から更に大きな影狼が喰らい、丸呑みにして地面に消えた。


「──なっ!?」

「お前を襲ったりしねぇから、怯えて逃げないでくれよ?」


 そういって、灰夢が影狼の中から出ていく。


「……お、おいっ! 危ないぞっ!」

「そうだな。出来れば、あの臭そうな液体は、俺も浴びたくねぇ……」

「いや、そういう問題じゃなくて……」


 すると、後ろの洞窟から満月たちが追いついてきた。


「……こわ、い、……いっ、ぱい……」

『こんなにも、たくさんの鴆が……』


 白愛と恋白が、敵の圧倒的な数を見て、言葉を失う。

 そんな怯える白愛を見て、満月がそっと声をかける。


「大丈夫だ。ここには、今、オレたちがいるからな」

「……大、丈……夫?」

「あぁ、大丈夫だ……」

「……うん」


 そう笑って告げる満月に、恋白が驚いた顔で振り返った。


『まさか、戦われるのですか? この数の鴆を相手に……』

「道を切り開いて、脱出するだけだ。これを相手にしてたら埒が明かない」


 そういって、満月が真希の元へと歩いていく。


「真希、この子を頼む……」

「あ、あぁ。満月、お前もあれが怖くないのか?」

「俺はロボットだ。別に、壊れても死にはしない」

「……そうか。……し、白蛇さま?」

『お話は後です。今は、この群れを何とかしなくては……』


 白愛に付いた白蛇に驚く真希を、恋白が冷静に収める。

 そして、白愛を真希に任せると、満月も灰夢の横に立った。


「おい。どうするよ、これ。帰れねぇんじゃね?」

「さすがに、この数を相手にするのは、遊びじゃすまないな」

「なんかこう、餌を撒いたらそっちに集らねぇか?」

「いや、はとじゃないんだから、それは無理だろ」


 緊張感のない会話が、二人の間に淡々と流れる。


「ここまで群れで出てくると、なんかレアリティ低く感じるよな」

「出現率の低いタイプのキャラにするなよ」

「怪異って、そういうもんじゃないのか?」

「それはそうだが。鴆と言っても、所詮は妖怪の中の鳥だろ?」

「まぁ、鳥が群れる習性を持ってても、おかしくはねぇか」


 満月たちを見た怪鳥たちが、再びカタコトの言葉で会話を始めた。


『人間、増えた……』

『人間、じゃないの、いる』

『敵、獲物、変わらず』


 そんな怪鳥たちを、灰夢と満月は焦らず観察し続ける。


「モンス〇ーハンターに、あんなのいなかったっけか?」

「……いたか? あんなの……」

「なんか、ベロをレロレロさせてる緑の怪鳥……」

「あぁ、プ〇プケか。いたなぁ、そんなの……」

「あれを思うと、急に雑魚キャラ感湧いてくるな」

「一体ならそうかもしれないが、この数の討伐は時間かかるぞ?」

「まぁ、確かに。それに、あれが大量ってのは、少し気が引けるな」

「考えるのはよそう、絵面が酷い……」


『白蛇、殺す……』

『喰らう。変わらない』

『子供。捕獲、喰らう。獲物……』


「面白い、やれるものならやって見せろ──ッ!!」



 <<< 完全補足ロック破壊開始バーストオン >>>



 満月が背中のミサイルを構え、一気に撃ち放つ。

 それを見た怪鳥たちが一斉に吠え、動きだした。


『キエェェェェェェェッ!!!』



 <<< 鳥獣演舞ちょうじゅうえんぶ緑扇乱羽りょくせんらんう >>>



 満月に対抗するように、怪鳥たちが一斉に羽を飛ばす。


「あらら〜、相打ちになっちまったな」

「オレのロックオンが、外れるわけないだろう」

「でも、すげぇ量の羽が飛んできてんぞ?」

「ターゲット以外の全てを交わして、ちゃんと対象物に当たるさ」

「ほ〜、すげぇな。流石だ……」

「ふっ、当然だっ!」


 灰夢に見せつけるように、満月がドヤ顔を決める。


「でも、それってよ……」

「……ん?」

「羽、全部こっち飛んでこねぇ?」

「……当然だ」

「──早く言えよッ!!!」


 その瞬間、満月の飛ばしたミサイルが、全て敵に命中し、

 それと同時に、大量の羽が二人に襲いかかり、砂埃が舞った。


「灰夢っ! 満月っ!」

『そ、そんな……』

「……き、かい……さ、ん……」


 そんな砂埃の中に、平然と立つ二人の影が写る。


「何だよ、この羽の大きさ。ア〇ス・イン・ワンダ〇ランドじゃねぇんだぞ」

「なら、お前も大きいものを出せばいいんじゃないか?」

「牙朧武なんかだしたら、村が一瞬でぺちゃんこだろ」


 砂埃が晴れると、灰夢の体には羽で傷がついていた。


「か、灰夢っ! お前、傷がっ!」

『いけませんっ! 鴆の毒が……』


 その姿を見た真希と恋白が、再び慌てふためく。


「……ん? あぁ、別に大丈夫だ……」

「……だ、大丈夫?」

「俺に毒は効かねぇから、心配すんな」

『……そ、そうなのですか?』


 そんな話をしているうちに、灰夢の体が再生していく。


「灰夢……。お前は、いったい……」

「……どうだ? 少しは、科学以外を信じる気にもなったか?」

「…………」


 何事もなく、平然と答える灰夢を見て、真希が言葉を失う。


「んにしても、マジででっけぇ羽だな。これだけで武器になりそうだ」


 灰夢が、近くに刺さっていた怪鳥の羽を拾い、

 両手で持ち上げながら、大剣のように構える。


「お前、それの付け根に毒が付いてるんだからな?」

「……え? あっ、まぁいいや……」

「……いや、よくないだろう」


「ここから俺の、ハンター生活が始まるんだよ」

「まさか、お前……それを武器にして、戦う気か?」

「影でも纏わせれば、割と行けるんじゃねぇか?」


 そういって、灰夢が巨大な羽を黒い影で包み込んだ。


「なんか、思ってたのと違うな。悪魔の羽みたいになっちまった」

「悪役全開の灰夢には、ピッタリだと思うぞ?」

「何を言ってやがる、全身凶器のサイボーグが……」


 緊張感のない二人の会話に、真希と恋白が目を丸くする。


『キエェェェェェェェッ!!!』



 <<< 機神撃・超電磁砲レールガン >>>



 不意に鳴いた一匹を、満月が超電磁砲を放って仕留めた。


「ひとまず退路を開きに、ひと暴れ行くとすっか」

「そうだな。まずは手当たり次第に、切り落とすところから始めよう」



























        【  死術式展開しじゅつしきてんかい …… ❖ 血壊けっかい ❖  】



























         『 きざ鼓動こどううなりをげて、


                 おのれ限界かせはなつ、


           ける血潮ちしおいかりとともに、


                 修羅しゅらみちへといざなわん 』



























      『 ねむ鬼神きしんらい、して天地てんちひるがえせ 』



























        【  ❖ 血壊死術けっかいしじゅつ鬼気きき 狂葬羅刹きょうそうらせつ ❖  】



























 死術の解放と同時に、灰夢の体から白い湯気が立ち昇る。

 それを見ていた真希と恋白が、異変を感じて目を見開く。


「灰夢、お前……」

「とりあえず百羽ぐらい狩ってくる。話はそこからだ……」


「……きか、い……さん、がん、ば……って……」

「……あぁ、必ず守ってやるからな」

「……うんっ!」


「ひと狩り行くぞ。満月──ッ!!!」

「素材集めが捗りそうだな。灰夢──ッ!!!」





 灰夢が影の大刀を握りしめ、勢いよく地を駆け出すと、

 満月もブースターから火を吹かせ、空へと飛び立った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る